二度目の教会
カズチと別れた僕は、ユウキと一緒に教会へ向かった。
ガーレッドは前回行った時に子供たちからの熱烈歓迎が嬉しかったのかとても楽しそうだ。
フルムは初めての場所ということもあり少しおとなしくなっている。今もユウキの足元にピタリと張り付きながら歩いていた。
「ピーピキャキャー!」
「わふー……わふわふ」
ガーレッドがフルムに大丈夫なのだと声を掛けているからか、フルムは何度もガーレッドに顔を向けながら返事をしていた。
その姿に癒されながら教会へ向かっていると、途中でシルくんに出会った。
「シルくん!」
「あっ! コープスさんにライオネルさん!」
「ピキュ!」
「ガーレッドもこんにちは。……あれ、その子は?」
シルくんはすぐにユウキの足元で今もピタリとくっついているフルムに気がついた。
「この子はフルムって言って、ユウキが契約した霊獣だよ」
「へえー、霊獣なんですね……へっ? れ、霊獣!?」
「あはは、初めて普通の反応を目にした気がするよ」
ユウキがそんな風に僕たちの反応を見ていただなんて知らなかったよ。
「れ、霊獣ってとても珍しい生き物だって神父様から聞きました。それがガーレッドだけじゃなくてもう一匹いるだなんて」
「霊獣って本当に珍しいのかな?」
「ピキャー?」
ガーレッドが分かるはずもなく首を傾げるばかりである。
「ジ、ジンも変なこと言わないでよ。カマドでも他の霊獣を見たことないだろう?」
「言われてみるとそうだね。王都に行った時もタイミングが悪かったのか見れなかったし」
「それだけ霊獣は珍しいってことだよ」
ユウキの補足に僕は納得しながら、シルくんに教会に行きたいのだと説明する。
すると他の子供たちもガーレッドに会いたがっていたのだと言ってくれたので一緒に向かうことにした。
「わふー……」
「大丈夫だよ、フルム」
「どうしたんですか?」
「実は、フルムは幼獣で初めて向かうところが少し怖いみたいなんだ」
「そうだったんですね……フルム」
「……わふ?」
ユウキから離れようとしないフルムにシルくんが優しく声を掛ける。
「今から行く場所には俺よりも小さな子供たちがいっぱいいるんだ。だけど、みんないい子だし優しい子供たちだから怖くないんだよ」
「……わふ」
「とっても元気でたまに神父様に怒られることはあるけど、フルムに悪いことをするようなことはない。だから、みんなと遊んでくれないかな?」
「……わふ!」
……わお。シルくんを子供と思っていた僕を殴り飛ばしたくなってしまった。
子供とはいえ、教会の中では年長さんなんだよね。しっかりしているのが当然、といってはいけないのかもしれないけどシルくんはとても大人だった。
そして、そんなシルくんの気持ちが伝わったからだろうか、フルムはユウキから離れてシルくんの足に顔をこすりつけていた。
「……」
だが、なぜか黙り込んでしまったシルくんに僕とユウキは顔を見合わせて困惑してしまう。
「……ど、どうしたの、シルくん?」
「はっ! ……いえ、その、とても可愛いなと思ってしまいまして」
……なるほど、それならば仕方ありませんね。
「可愛いは正義だからね!」
「ジンってそればっかりだよね」
「ピキュキュー!」
「んふふー! ガーレッドも可愛いよー!」
シルくんのおかげでフルムの機嫌も良くなり、僕たちは教会に到着した。
案の定、フルムはガーレッドと並んで大人気となり教会の前の広場で力いっぱい走り回っている。
ガーレッドも炎晶石を食べたことで大きくなったからかよちよち歩きからは成長して足取りはしっかりしているものの、それでもフルムよりも動きは遅い。
ガーレッドの方が先に生まれているのだからどうしてだろう。ドラゴンとライガーの違いもあるのだろうか。
そんなことを考えながら子供たちと楽しんでいる風景を僕は眺めている。……そう、眺めている。
「……えっと、君はどうして毎回私の相手を?」
「……どうしてでしょうねー」
僕の隣には前回同様に神父様が腰掛けている。
ガーレッドとフルム、そしてユウキが人気を二分してしまい僕の方にはこれまた誰も寄ってこなかったのだ。
……僕、何もしていないのにね。
「まあ、神父様が話し相手になってくれているので僕は大丈夫ですよ……えぇ、全然大丈夫ですとも」
「……えっと、すみません。私もやることがあるのですが」
「……そう、ですよね」
……ふふふ、これで正真正銘の一人ぼっちになってしまうわけだ。
「いや! そんな用事ありませんでしたね! あは、あはは!」
「いいんですよ、無理はしなくて。僕は僕でみんなの姿を見ながら楽しんでおきますから」
「……本当にすみません」
謝られながら、神父は申し訳なさそうに席を立ち教会の中へ戻って行った。
僕は外のベンチに腰掛けていると時折ユウキがチラリとこちらを見るのだが、僕は軽く手を振るだけでそこに行こうとはしない。何故なら――
「——えぇー! お兄ちゃんと遊ぶのー!」
「——あの人はいらなーい!」
「——やだやだー!」
といった具合にもの凄く嫌われているのだ。
……いやマジでなんでだよ! 本当に何もしてないんだけど! 何もしてないからダメなのか? いやいや、それにしても酷過ぎるだろ!
「——大丈夫ですか?」
そんなことを考えていると、やはりというか何というか、空気を読んでくれたのかシルくんがこちらに来てくれた。
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