商人ギルド
商人ギルドの作りは、基本的に冒険者ギルドと似ていた。
まあ、役所の隣に建てられているので左右対称で造られたのかな、と予想することはできる。
また、冒険者ギルドに比べて人はあまり多くはない。
毎日のように依頼をこなして報酬を受けとる冒険者とは異なり、職人は一度に多くの作品を納品するということだろうか。
事務員として何度も顔を出しているのか、ホームズさんは商人ギルドでも迷うことなく真っ直ぐに一つの受付へと歩いていく。
その先にいたのは、柔和な笑顔を浮かべて迎えてくれた一人の青年だった。
「ザリウスさん! 久しぶりじゃないですか?」
「お久しぶりです、レオン。最近は他の事務員が顔を出していましたからね」
他のというとノーアさんとカミラさんだろう。
商人ギルドなどに顔を出すのも全てホームズさんがやっていたと考えれば、書類整理だけではなくこういったところでも負担は減っていたんだと安堵する。
「今日はどうしたんですか?」
「こちらの方の作品を納品しに来ました」
「こちらの方って……見習いの子ですか?」
「ジン・コープスです。……一応、れっきとした鍛冶師です」
「えっ! す、すみません!」
「いえいえ、見た目だけだと確かに見習いなのでお気遣いなく」
「……は、はぁ」
困惑顔を浮かべるレオンさんを見ているホームズさんは苦笑していた。
「コープスさん、数はどれくらいありますか?」
「えっと……結構な数がありますけど……」
「……で、できれば個室に移動したいのですが、構いませんか?」
「大丈夫ですけど……えっ、そんなにあるの?」
さらに困惑顔が深くなったレオンさんを先頭に個室へと案内される。
個室の造りは冒険者ギルドと全く同じでそのまま腰掛けると、僕は魔法鞄からナイフをどんどんと取り出していく。
「凄い数だね……うわー……わー……えっ、まだあるの?」
「もう少しですよ」
「……あるんだ」
顔を引きつらせているレオンさんには悪いと思いながら、僕は一〇本以上のナイフを机に並べた。
「一応、中級冒険者が使ってもそん色ない出来にはなっていると思いますよ」
「……ですね。これだけの数が一ヶ所から一気に市場に流れたら大変ですよ」
「えっ、そうなんですか?」
「一ヶ所から流れたらね。全体で見たら問題はないんだけど、一時でも売り上げを独占するお店が現れたら文句を言ってくる職人がいるんだよ」
「でも、実力勝負の世界ですよね?」
「よく分かっているね」
レオンさんは苦笑しながらその理由を教えてくれた。
「文句を言ってくるのはお店を出したばかりの若い職人が多いんだ。自分がお店を出してこんなことがあるか! っていう我儘だね」
「そういう厳しい世界だって知ってお店を出しているはずなのに」
「……本当によく分かっているね。まあ、そういう若い職人っていうのは所属していたクランで上の実力を持っていた人が多くてね、お店を出した途端に売れなくなって、その不安から文句を言いたくなるんだろうね」
自分の作品が売れているのは自分が凄いからではなく、クランという看板があるから売れているのだ。
それを自分が凄いからと自惚れていてはすぐに潰されてしまうだろう。……いや、自分で自分のお店を潰していると言うべきかもしれない。
「なので、この作品は少しずつお店に卸していこうと思いますがいいですか?」
「もちろんです。私からもそのようにお願いしようと思っていましたから」
「レオンさん、よろしくお願いします」
僕が立ち上がって頭を下げると、レオンさんは一瞬だけ驚いた表情をしていたけどすぐに笑みを浮かべて頷いてくれた。
「みんながコープスさんみたいに素直だったらいいんだけどね」
「職人はみんな我儘ですからね。その中でほんの少しだけ謙虚になれる心があればいいだけなんですよね」
「……コープスさんって、本当に子供なの?」
「誰がどう見ても子供じゃないですか!」
僕が腰に手を当てて胸を張ると、レオンさんは空笑いを溢していた。
「そうだ! レオンさん、今日はダリルさんはいますか?」
「ダリル先輩なら出勤ですよ。そっか、王都まで一緒に行ったんでしたね。呼んできましょうか?」
「あー、いえ、仕事の邪魔はしたくないので少しだけ顔を見せられたらと思っただけなので」
「大丈夫だよ。今は暇をしているはずだからね」
「そうなんですか?」
「ダリル先輩は上の立場の人だからね。だからこそ商人ギルドの代表として選ばれたんだよ」
「……知らなかった」
「あまり自分が上の人間だって言いたくないみたいだからね。みんなと気安く関わり合いたいって人だから。ちょっと出るから待っててね」
レオンさんは笑顔で個室を後にした。
そしてしばらくすると――笑顔のダリルさんが入れ替わりで入ってきた。
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