ダリルとの再会
ダリルさんは僕とホームズさんの顔を見や否や笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。
「ジンもホームズ殿も久しぶりです!」
「ダリルさん、お久しぶりですね!」
「カマドに戻ってきてからも大変でしたね」
「あははー。あれはまあ……仕方ないですね」
んっ? 何の話だろうか。
僕の表情を見たホームズさんが苦笑しながら理由を教えてくれた。
「ゾラ様が何度か呼び出しを受けていたでしょう? その件でダリルさんには色々と動いてもらっていたんですよ」
「あー、えっと、僕が素材を使いまくっちゃったから?」
「いや、そこは全然問題ない。むしろ必要経費だったし、素材もどちらかというと残ってた方だからな」
「そうなんですか? だったらいったい何に……」
……なんで二人ともこっちを見てるんですかね? それも哀れな人を見るような視線で。
「……コープスさんが打った武器の数々ですよ」
「あれが上の目に止まってな。ジンが打てるなんて思ってもいなかった上がゾラ様を呼び出して事情を聞いていたってことだ」
「あー、そんなこともありましたね」
「……口裏を合わせるのも大変だったんだぞ?」
「……すいませんでした」
アクアさんから話を繋ぎで聞いていた話だ。
なんでもゾラさんが僕を庇ってくれていたのだとか。
「最初は儂に聞けー! って言ってるだけだったんだけど、いざ話を聞こうとしても要領を得なくてな。それで、俺が話を合わせることにしたんだ」
「……た、大変でしたね」
「……本当にね。一応、最終的にはゾラ様がお礼としてその場で打てる武器を打ってあげたってことにしたんだけどねぇ」
「何か問題でも?」
切れの悪いダリルさんの言葉にホームズさんが疑問を口にする。
「上も渋々納得はしたようですが、まーだ何かあるんじゃないかと目を光らせているみたいなんですよね」
「そうなんですか?」
「……でしたら、レオンにお願いしたナイフは一度取り下げた方が?」
「いや、あれはもうそのままの方がいいです。今取り下げると逆に怪しまれるんで」
「そうですか。すみません、面倒なことになってしまって」
頭を下げてきたホームズさんに、ダリルさんは慌てて手を顔の前で振っている。
「いやいや! ホームズ殿が謝ることじゃないんですよ! これも全部、優秀な鍛冶師を確保したいっていう上の問題だからな」
「そういえは、ダリルさんも上の人間なんですよね?」
「……レオンから聞いたのか?」
「はい……えっ、違うんですか?」
つい先ほど聞いた内容だから間違いないと思うのだが、ダリルさんの反応はあまりよろしくない。
すると、ダリルさんは苦笑しながら喜べない理由を教えてくれた。
「俺が昇進したのは王都から戻ってきてすぐだったんだ。まあ、危険な依頼をこなしたからってご褒美のつもりだったんだろう」
「それがご褒美じゃなかったんですか?」
「給料も上がったしご褒美には間違いないんだろうが、その分忙しくなったし上からも下からも色々と話を聞くはめになってなぁ、これがなかなか辛いのよ」
「あー、中間管理職ならではの地獄ですね」
「……まあジンだから気にならないが、子供は普通そんなこと言わないぞ?」
……そうですね、すいません。
「確かにそうなんだよな。まあ、俺は体のよい緩衝材にされたんだろう」
「断ることはできなかったんですか?」
「みんなの前で帰還を祝われたからなぁ、さすがに無理だったわ」
「うわー、断れないように仕向けられましたね」
「……だよな?」
「ですです」
ダリルさんは交渉役として、商人ギルドからの情報が少ない中でもしっかりと動いてくれていたし、シリカさんやクリスタさんがやり易いように気を使ってもいた。
そんなところが単純に評価されたのなら素直に喜べるのだが、今回の昇進は祝いの言葉を言ってもいいのかどうか迷いどころである。
「まあ、ここからさらに上に行けたらだいぶ楽になれるだろうから、頑張ってみるけどなー」
「ダリルさんなら大丈夫ですよ。陰ながら応援していますね」
「ホームズ殿に言ってもらえるとやる気になりますね」
「僕も応援してますからね!」
「……ジンに言われると力が抜けるな」
「なんで!」
あはは、と笑いながらダリルさんが立ち上がる。
「ジンは何て言うか、話をしていて疲れないからな。リラックスできるんだよ」
「……良い意味ってことですよね?」
「もちろんだよ。それじゃあ、あんまり時間を貰っても悪いからそろそろ出ようか」
「こちらこそ貴重な時間をいただいてありがとうございました」
「俺もジンと話したかったからな、ありがとう。もし時間があればクリスタさんやシリカにも顔を見せてあげてくれよ」
「シリカさんには会いましたよ……あー、会ったと言えないかもしれませんけど」
「……どういうことだ?」
ここで役所での一幕を話してしまうと時間を取ってしまうので、僕は苦笑するにとどめた。
首を傾げていたダリルさんだったが、特に追求することもなくドアを開けてくれて、僕たちは商人ギルドを後にした。
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