ソニンの錬成
錬成について一通りの説明が終わると、ついにソニンさんが錬成を行うことになった。
楽しみだなぁー、早く見たいなぁー、それにこの後カズチも錬成するわけだから二回も見られるんだよね!
ここは感情を隠す必要もないだろうし、ニコニコしながら台座に視線を向けた。
……別に、隠すのが面倒臭いとか、そんなんじゃないんだから。
「では始めましょう」
台座に置かれた素材に両手を向けてソニンさんが呟く。
錬成場では遠すぎて聞こえなかったが、この距離なら何を言っているのかはっきりと聞こえた。
「我の声を聞け、我の意思に従え、我は錬成師、我に己の姿を晒せ、さすればその身を汚すものを取り除き、不浄なものを浄化させ、本来の姿を取り戻させよう」
これは呪文のようなものだろう。
ソニンさんの言葉を受けて素材がひとりでに震え始めた。
周辺にこびりついていた土や砂がポロポロとこぼれ落ち、その姿が露わになる。
光沢があり見た目だけなら一級品ではないかと思われる銅だが、直後にドロリと溶け出して銅の液体が出来上がった。
中身もぎっしりしていれば台座から溢れると思っていたが、意外にもその量は少なく中にも土や砂、さらに空洞があったのかと納得させられた。
ここまでが分解と排除の行程、次が重要となる浄化だ。
溶けた銅に気のせいか白い光が浮かび上がっているように見える。
「……違う、本当に光ってる」
「これは浄化がうまく進んでいる証拠です」
溶けた銅の表面に泡が浮かび弾ける。その度に白い光が溢れ出し消えていく。
これも錬成場では見なかった光景だ。
ゾラさんといい、ソニンさんといい、何者なんでしょうねぇ。
「素材の中に取り込まれていた魔素が浄化され溢れ出す。それが光となって目に見えるようになり消えていくのです。綺麗でしょう?」
綺麗だ、確かに綺麗だ。
だけど、だけどー!
「何で銅だったんですかー!」
「えぇっ!」
見た目が土色だからか、泥水が光っているようにしか見えなくてあまり幻想的とは言えないんだよ!
これが銀とか金だったらめっちゃ綺麗だったんじゃないのかなあ!
「と、とりあえず錬成の行程を見せるためですから、仕方ないじゃないですか!」
「だったら、綺麗でしょう? とか言わないでくださいよ!」
「な、なんだか恥ずかしくなってきたから言わないでください!」
「……お主ら、何をやっているんじゃ」
「……副棟梁」
ゾラさんは頭を押さえ、流石のカズチも残念そうに見つめている。
耳の先まで赤くしソニンさんだったが--。
「最後は構築ですよ!」
「あっ! 無視し--」
「大事なところだから集中しなさい! でないと置いていくわよ!」
「……ち、力技かい」
「……ふく、とうりょう」
「やりますよ!」
「「「は、はい!」」」
これ以上ソニンさんを刺激してはいけない。
……大丈夫だよ、もうやらないから、だからそんな目で見ないでよゾラさん! 怖いから! ってかあなた棟梁だよね!
「構築ですが、これは自分が想像しやすい形をイメージしてください。丸なら丸、四角なら四角、と言った感じですね。私の場合は丸なので丸をイメージして構築を行います」
浄化の光が落ち着いた直後、今度は中心から波紋が浮かび上がり徐々に渦を巻く。
中心から凝固していくと、ソニンさんがイメージしたであろう球体に姿を変えた銅が台座の上に転がっていた。
「これで錬成は終了です」
「……すごく小さくなりましたね」
「見た目には分からないところに不純物や空洞があったのでしょう。錬成には素材の質量を確認すること、浄化で魔素を消失させること、二つの役割があります」
「浄化が一番重要なんですよね?」
「もちろんそうですが、質量の確認も重要ですよ。仮に鍛冶で質量一〇〇の銅を使いたいと思った時に、その質量が分からなければ大変です。足りなければさらに加えて、加え過ぎたら減らして、その間に緻密な作業が狂って鍛冶自体を失敗してしまった、なんて話もあるくらいですから」
「なるほど。小さなことでも何かしら意味があるってことですね」
素材がどのように変化していくのか、それは十分に分かった。
だけど根本的にどうやってリースを発動するのかが分からない。手をかざすだけで発動する、なんてことはないだろう。
「うふふ、顔に出てますよ。リースの発動についてはカズチの錬成を見ながら説明しましょうか」
「……な、なんか緊張するなぁ」
「いつも通りにやれば大丈夫ですよ」
ソニンさんという万能人間の後に錬成なんて可哀想だけど、頑張れカズチ!
--僕のために!
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