冬支度二日目④

 ソラリアさんの道具屋を後にした僕とゾラさんは通りを歩いている。

 湯飲みに関してはこってり絞られてしまったが、よくよく考えると湯飲み以上に僕もガーレッドもお世話になっているので別にいいのではないかと思い始めていた。


「小僧、反省しておらんな?」

「ぐぬっ!」


 しかし、僕の考えはお見通しのようでゾラさんは溜息をつきながら歩いていた。


「でも、ソラリアさんには相当お世話になってますし、湯飲みくらいじゃ足りないと思いますよ?」

「それは儂がお礼をするもんじゃから、小僧が気にすることではない」


 そうは言われても僕やガーレッドがお世話になっているのに、そのお礼を棟梁とはいえゾラさんに丸投げするのはどうかと思う。

 曲がりなりにも、僕だって見習いを卒業した鍛冶師であり錬成師なのだ。


「……全く、頑固じゃのう」

「生産のことに関しては」

「自覚はあるんじゃな」


 また溜息を……と思ったが、今回は苦笑を浮かべながら頭を撫でられてしまう。

 何事だろうと首を傾げていると、ゾラさんは特に気にした様子もなく話し始めた。


「それで、今日は他に何処へ挨拶に行くんじゃ?」

「いえ、ソラリアさんのところで終わりです。後はゾラさんにですけど、それは本部に戻ってからということで」

「当然じゃ。あんなもんを出されたら注目の的になってしまうわい」

「……あー……えっと……そう、ですねー」


 歯切れの悪い僕へジト目を向けてきたゾラさんは、今度こそ盛大に溜息をついてしまう。


「小僧、もしかしてあれ以上に何か変なことをしたということじゃな?」

「あはは……まあ、そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれませんよ?」

「そうじゃろうな。全く、自重が足りんとずーっと思っておったが、ここまでねじが外れているとはのう。まあ、分かり切っていたことか」

「酷いですね!」

「自覚があるんじゃから酷くもなんともないじゃろうに」


 た、確かに自覚はあるけど! 面と向かって言われるとなんだか傷つくよ!


「……まあ、楽しみにしておくとするか」

「えっ? 楽しみなんですか?」

「そりゃあ当然じゃろう。小僧みたいな規格外が自重をせずにどんなものを作ったのか、一人の職人としては気になるからのう」


 ……ふふふふ、ゾラさんにそう言ってもらえるとなんだか嬉しい。

 命の恩人であり、鍛冶師としての師匠であり、この世界での父親代わりだからかな。


「なんじゃ、変な顔で笑いおって」

「こういう顔だから仕方ないんですよ」

「ピーキャー!」


 ガーレッドにも僕の嬉しさが伝わったのか、笑みを浮かべながら声をあげている。


「んっ? なんじゃ、あの串焼きが食べたいのか?」

「ピキャン!」


 ……どうやら違ったようです。僕の感情が流れているはずなんだけどなぁ。


 途中の屋台でつまみ食いをしながら本部へと戻った僕たちは、そのままゾラさんの私室へと向かい少しばかりゆっくりする。

 というのも、調子に乗ったゾラさんが買い過ぎてお腹がパンパンなのだ。


「うぅー、お腹が、破裂するー」

「ピキャーン! ピキャーキャー!」

「ガーレッドはぺろりと食べたのに、小僧は小食じゃのう」


 成長真っ盛りのガーレッドと比べないで欲しい。というか、ゾラさんもなんで平気なんでしょうか。僕の倍くらいは食べていた気がするんですけど。

 出された温かいお茶をすすりながら一息つくと、ようやくといった感じで魔法鞄に手を伸ばす。


「どれどれ、楽しみじゃのう」

「期待に応えられるかは分かりませんよ?」

「小僧からの贈り物じゃ、どんなものでも嬉しいわい」


 ……は、恥ずかしいことをサラリと言ってくれますね、ゾラさん。

 少しの照れと、少しの緊張が混ざった感情のまま取り出したお礼の品を見て、ゾラさんは目を大きく見開いていた。

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