大爆笑

 僕たちの中で最初に声を漏らしたのはヴォルドさんだった。


「ぶふっ! がははははっ!」

「ヴォ、ヴォルド!」

「いや、すまねえザリウス。だが、しかし……くくくっ!」


 次にガルさん。


「いやー、破壊者デストロイヤーに女装趣味があったとはな!」

「ガルさんまで! からかわないでください!」

「冗談だよ、じょーだん! だが本当に似合ってるなあ! 普段からやってないとこうも着こなせないんじゃないのか?」

「絶対にあり得ませんからね!」


 耳まで真っ赤にしているホームズさんに僕は笑みを浮かべてしまう。声に出すわけでもなく、純粋に似合っているからだ。


「僕の目に狂いはなかったですね!」

「ピキャキャー!」


 似合うと思っていたのだ。ガーレッドも同じ意見のようだし、これなら絶対に破壊者だってバレることはないだろう。

 もしかしたらアシュリーさんと交代して護衛を任せることもできるんじゃないだろうか。

 僕の考えに気づいたのか、ホームズさんが切れ長の目で僕をにらんでいる。


「今回限りですからね!」

「……ちぇー」

「何ですかその言い方は!」

「アシュリーさんも休みたいだろうし、後一回くらいはやってもいいんじゃないですかねー」

「それもそうですね! 護衛の中で私だけ自由時間がないのは疲れます!」

「……ア、アシュリーさんまで」


 いくら冒険者とはいえ女性に言われてしまうとホームズさんでも強くは言えないらしい。了承するでもなく、断るでもなく、ただただ溜息をつくだけだ。

 それでも明確に断ることをしないということは思うところがあるからだろう。ここは一つ決断していただきたいところだ。


「とりあえず、あっちで隠れて笑ってるダリルの旦那を含めてこれで全員の準備が完了したってことでいいんだな?」


 気を取り直したガルさんが本日の予定を消化する為に確認を口にする。

 交渉組も護衛組も準備は完了しているということでそのまま城へ向かうことになった。

 僕はガーレッドと一緒にみんなを見送ったのだが、今日の予定が全くないのでどうしたものかと考え始める。

 王都はカマドと違って娯楽施設も充実しているだろうが、僕にとってはカマドの生産に関するお店巡りの方が楽しいので行こうとは思わない。

 だからといって普通に観光しようにも昨日の襲撃が頭をよぎり一人で出掛けるのはどうも気が引けてしまう。

 グリノワさんはドワーフの寄り合いに行くと言っていたし、残るはヴォルドさんだけなんだけど、昨日は部屋にこもりっきりだったヴォルドさんを付き合わせるのも悪い気がする。


「小僧は今日どうするんだ?」


 そんなことを考えているとヴォルドさんから声を掛けてくれた。

 僕は特に予定が決まっていないことを話すと、こんな提案までしてくれた。


「せっかくだから鍛冶でもしてくるか?」

「い、いいんですか!」

「ピギャ!」


 僕は飛びつかんばかりの勢いでヴォルドさんに声を上げてしまった。

 あまりにも嬉しい提案に力が入ってしまったのか、ガーレッドが腕の中で苦しそうな声を漏らしている。


「ゴーダさん以上の情報を俺が手に入れられるとも思わないからな。だったら小僧に鍛冶をしてもらった方が価値はありそうだ」

「価値ですか?」

「装備の充実だよ。長剣でもあればガルやグリノワさんが扱えるからな。前にも言っただろう?」

「そうですけど……そうですね。昨日のことがありましたから、少しでも装備を充実させるのは必要ですか。でも、昨日の襲撃は王都の警備隊にも伝わってますよね? 何か事情を聞かれたりしないんですか?」


 あれだけ大きな騒ぎになったのだ。

 宿屋から見れば被害もあったわけだし何かしら調べは進んでいるだろうけど、ここに誰もいなくていいのだろうか。


「説明はすでに終わっている」

「えっ?」

「昨日のうちにザリウスが終わらせているから心配するな」

「そうだったんですか?」


 どうやら宿屋の主人に薬をもらった時に事情を説明したようで、クリスタさんの手当てが終わったタイミングで警備隊が宿屋に到着。その時に事情を説明したのだと教えられた。


「ものすごく手際がいいことで」

「ザリウスが踏んだ場数は俺達の想像以上だろうからな。これくらいのことは経験しているだろうさ」


 これくらいって、王都での襲撃をそんな表現でいいのだろうか。


「でもまあ、報告ができてるなら鍛冶をしたいですね。でも何処で?」

「宿屋の裏に庭がある」

「庭があるって、そんな簡単に言いますけど許可が必要でしょうに。それに音だってうるさいですし」

「許可なら問題ないだろう。音もニコラが宿屋に残っているはずだから消音魔法が使えるぞ」


 ニヤリと笑ったヴォルドさんに僕は苦笑を浮かべつつ、鍛冶をしたい気持ちもあったので宿屋のご主人さんに確認を取りに行く。

 ご主人さんは二つ返事で許可を出してくれて、ニコラさんも軽く了承してくれた。

 メルさんも暇だからと付き合ってくれるということで、僕たちは四人で宿屋の裏にある庭へと向かった。

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