もし離れるなら……
僕のせいで回りが巻き込まれてしまうのであれば、いずれは『神の槌』を離れなければならないかもしれない。
それに、よくよく思い返せば巻き込まれたのはゾラさんやソニンさんだけではないのだ。
ガーレッドが誘拐された時にはカズチが怪我をして、ユウキに至っては大怪我をしている。
悪魔事件はユウキを助ける為に僕から向かって行ったから違うかもしれないが、それでもリューネさんを巻き込んでしまったことになるかもしれない。
「……もしかしたら、結構早いタイミングでその時が来るかもしれないなぁ」
何故そう思ったのか。それはユウキが『神の槌』でお世話になると決まった時からだ。
今回はユウキの人柄やフルムがいたこともあり話がスムーズに進んだが、本来なら外部の人間をおいそれとお世話するなんてことはしないだろう。
お金の管理もあるだろうし、盗難や情報漏洩の可能性だってあるはず。
カマド最大のクランである『神の槌』だからできたと言われればそれまでなのだが、この案件は受け入れることができてもやりません、と言うのが普通の話だ。
それともう一つの理由。
「英雄の器が、フルムを呼び寄せたんじゃないのかな?」
効果の一つである『良い巡り合わせ寄ってくる』というもの。それがフルムの呼び寄せて、身近にいたユウキと巡り合わせた可能性も考えられる。
そうなれば、ユウキとフルムのことだって僕が『神の槌』を巻き込んだと言えるのだ。
「考え過ぎかもしれないけど……」
ゾラさんなら僕の悩みも気にするなと一蹴してしまうだろう。ソニンさんもそうだし、ホームズさんだってそうだ。
みんな、とても優しいから。英雄の器が巡り合わせてくれた人たちだから。
だからこそ冷静に、客観的に見てくれる人に相談したいと思ってしまう。
「……誰かいるかなぁ」
最初に思い浮かんだのはリューネさんとダリアさんだが、二人とも英雄の器について知っているので客観的に見てくれるかが分からない。
二人以外となるとパッと思い浮かぶ人がいないこともあり、僕は別のことを考えることにした。
「もし『神の槌』を出るとなれば、カマドから出ることも考えなきゃ」
僕の作品のせいでカマドの全体の価格破壊が起きる可能性がある。
それはどこの都市でも同じだろうけど、そこに関してはちょっとした考えがあるのでどうにかなる気がしている。
問題は、僕一人で考えを実行できるかどうかだ。
「……まあ、なんとかなるかな。ガーレッドがいれば僕はそれで構わないし」
そう言って視線をぐっすり寝ているガーレッドへと向ける。
可愛い寝息を聞いているだけで気持ちが落ち着き、明日も頑張ろうと思える。
ガーレッドの為なら、僕はなんでもできる気がするよ。
「……僕も寝ようかなぁ」
そんなことを呟きながら、僕は机の上に置かれている読みかけの歴史本へ視線を向ける。
手を伸ばしてもよかったのだが、王様から聞いた先導者のイメージが頭の片隅に残っているので気が進まなかった。
どっちの話が本当なのか、同じ転生者としては王様の話が本当であって欲しいのだが果たして。
「……あ、知ってそうな人が一人いるや」
寝ようとした時に思い付くだなんてね。
フルムのことでもお世話になったソラリアさんだ。
もしかしたら先導者についても知っているかもしれないし、僕の悩みについてもソラリアさんなら客観的に見てくれるんじゃないだろうか。
「ただ、先導者のことを知っていたら英雄の器についても知ってる可能性が高いんだよなぁ」
博識なソラリアさんなら僕がオリジナルスキルを持っていることに気づくかもしれない。
しかし、適切な人物が他に思い浮かばないのも事実だ。
「……やっぱり、今度聞いてみよう」
ソラリアさんなら気づくだろう。そして、やはり優しく受け入れて話してくれるに違いない。
「結局、僕はこの世界で回りに助けられてばかりだな」
いつの日か、僕がみんなを助けられる日が来るよう今以上に精進しなければ。
鍛冶スキルと魔導スキルのランクアップに錬成スキルの習得。なんなら魔素分解スキルのランクアップだって生産スキルに関わっているのだ。
「……寝よう」
これ以上考えると思考の海にどっぷり浸かりそうなので無理やり考えることを止めることにした。
ベッドにゆっくりと横になりガーレッドの寝顔を見つめながら、僕は眠りについた。
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