話し合い?

 魔獣の残党が残ってはいたものの、僕とユウキで広場への侵入を防ぐことで回復は順調に行われた。

 フローラさんの魔力が心配だったけど、なんとか保ったようでホッとした。

 火炎放射を無差別に放ったことで魔獣の掃討も無事に終わり、洞窟内には静けさが戻っている。

 そんな中、無言で立ち上がったポットだったが、突然ユウキを睨みつけると大股で近づくやいなや口を開いた。


「お前がいたからフローラはパーティを抜けたんだ!」


 あー、この人はまだそんなことを言っているのか。自分たちが何をしたのか、その結果ユウキとフローラさんがどんな目に遭ったのか全く理解していないようだ。


「ポットさん、違います! 私がパーティを抜けたのは私の意思です!」

「フローラは黙っていろ! これは俺とこいつの問題だ!」


 もの凄い暴論を口にする人だな。張本人であるフローラさんに黙っていろだなんて、答えが出ないではないか。

 思わず僕が口を挟もうとしたが、ユウキがそれを目で制してきたので仕方なく黙っていることにした。


「僕が何をしたって言うんだい?」

「俺たちのパーティからフローラを引き抜いたじゃないか!」

「それを僕が仕組んだことだと?」

「そうだ!」

「それじゃあ、どんな証拠があるのか見せてもらってもいいかな。それと、どうやって僕が引き抜いたのかを教えてくれないか?」

「証拠も何も、事実フローラはお前とパーティを組んでいるじゃないか!」

「そうだね。それで?」

「それで、だと!」


 うわー、ユウキも大胆だね。相手を挑発して粗を出させようとしているよ。

 まあ現時点でももの凄い暴論なので理詰めで落とそうと思えば落とせるけど、それを確実なものにしようとしているのだろう。


「僕とフローラさんがパーティを組んでいることは事実だ。それがどういった証拠になるんだろう。それに引き抜いたと言うけど、それは誰が言ったことなのかな?」

「誰がって、事実そうじゃないか!」

「質問の答えになってないね。ポットが勝手に引き抜かれたと思っているから、そう言っているんじゃないの?」


 おっ、攻勢に出る様だ。


「ポットは自分の考えだけで話をしているようだけど、誰かに話を聞いたのか? それはガルやオルス以外の人からの話なのか?」

「そんなこと知るか! ガルやオルスも俺と同じ意見だからな!」


 ガルにオルス? それは残る二人のことだろうか。

 同じ意見、という割にはその二人は言い合いに参加する気配は一向にない。それどころか困り顔を浮かべているように見えるのは僕の気のせいかな。


「ポットはさっきフローラさん本人の意見を聞こうとせずに黙れ、と言ったけど、フローラさんから話を聞いたのか?」

「貴様に口止めされているから嘘の証言をするんだ!」


 えーっと、ポットさんは何故にそこまでユウキを悪者扱いするのだろうか。

 フローラさんの助ける為に逃げずに戦い、なおかつ生きてカマドに戻ってきたのだから、感謝されることはあっても恨まれることはないはずだ。

 それに、そもそもがおかしいのだ。ユウキのせいで事件に巻き込まれたと言っているみたいだけど、元々は無茶な依頼を受けたそっちのせいなのにね。


「……ポット、まずはフローラさんの意見を聞いてからじゃないと話にならないよ。僕が口止めをしているというのなら、今、君がいる目の前でなら本当のことを言ってくれるとは思わないかい?」

「当然だ! それなら聞いてやるさ!」


 いや、さっきは興奮して何も聞かなかったのはそっちだよね。

 もの凄く口を挟みたい、挟みたいんだけどちょこちょこユウキと目が合うんだよね。明らかにいらんことをしないでってことだよねー。


「フローラ! 本当のことを言えばすぐにでも俺のパーティに戻ってもいいんだぞ!」

「……ポットさん?」

「なんだ?」


 自信満々の表情で自分に有利な意見が飛び出すことを待っているポットさんだけど――。


「戻るわけないじゃないですか!」

「……なっ!」


 まあ、そうですよねー。この人、言っちゃあ悪いけど、バカなのだろうか?


「ちゃんとフローラの意見を口にしていいんだぞ! な、何か弱みでも握られているのか? それなら俺がこいつを懲らしめて――」

「あなたは自分が助かる為に私を見捨てて逃げ出しました。そして、その罪をユウキ様に全て押し付けたんです。そんな人とパーティを組み続けるだなんて、できるわけないじゃないですか!」

「あ、あの時は仕方なかったんだ。それにフローラも助かったじゃないか、それならまたパーティを組んだっていいじゃないか」

「私が助かったのは、ユウキ様が助けてくれたからです。逃げ出した皆さんと違って、ユウキ様は最後まで私の隣にいてくれました、励ましてくれました。最後まで見捨てずにいてくれた人のパーティに入りたいと思うのが、そんなにいけないことなんですか?」

「これからは俺が守ってやるさ!」

「私の中で、すでにポットさんへの信頼はありません。もしユウキ様のパーティを抜けることになっても、あなたのパーティに入ることは一生ありません!」


 ……おぉぅ、フローラさんも言う時は言う人なんだね。驚きはしたものの、今の言葉は効果てきめんだったようだ。

 あれだけ自分優位の発言を繰り返していたポットさんが固まり、何も言えなくなってしまったんだから。


「これ以上騒ぐと、また魔獣の群れが現れるかもしれませんが、どうしますか? 次は助けるつもりありませんよ?」


 そして、この言葉が止めの一撃となった。

 ポットはガルとオルスに宥められながら、洞窟の入口へと戻って行った。

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