二人の想い
部屋に戻るとみんなからの心配が嬉しくて頬が自然と緩んでしまう。
だが、この心配も僕が原因で起こってしまっていることなので気を引き締めなければならない。
ゾラさんとソニンさん。仮にどちらか、それとも両方が戻ってこないなんてことになれば、この心配は恨みに変わる可能性もあるのだから。
「……絶対に一緒に帰ってくるんだ。そして、鍛冶三昧の錬成三昧でスキルの習得を目指すんだから!」
僕の願いは生産に従事することである。
ケルベロスや悪魔と戦ったり、王都に行くのが好きなわけではない。僕は冒険者ではなく、鍛冶師なんだから。
僕が生産に従事する為にはゾラさんとソニンさんは一番重要な人物なのである。
草原のど真ん中から拾ってくれて、カマドまで連れて来てくれて、クランへの迎え入れてくれた大恩人。
争いごとは嫌いだし、巻き込まれたくないのが本音だけど、大恩人を見捨ててまで居座ろうとは思わないし、一度死んだ人生である。命を懸けて助けることもまた必要だと感じている。
「……ガーレッドも力を溜めているんだから、僕が頑張らないでどうするんだよ」
未だに眠り続けているガーレッドのお腹を撫でながら、僕は大きく深呼吸をする。
「すー……はー……よし」
気持ちをリフレッシュさせた後は、
槌と鋏は必須として、後は持ち出しでいくつかの素材を突っ込んでいく。
キルト鉱石で上手くいったのだから、銅よりもキルト鉱石を多く入れておくべきだろう。素材の質としてはキルト鉱石の方が上だからね。
次に僕が打ったナイフの中から出来の良いものをいくつか見繕う。何に使おうか悩んでいた作品だし、ここで大量に放出しても問題はないだろう。
というか、これだけあれば打つ必要もないんじゃないか? ……まあ、いっか。
後はガーレッド用に新鮮な野菜を貰っておかないといけないから、あとで食堂にも顔出さなきゃいけないな。人の波が収まる時間を見計らって行こう。
他に忘れているものがないか考えていると——
——コンコン。
ちょうどドアの近くに立っていたのもあり、僕はすぐにドアを開けた。
「うおっ!」
「あれ、カズチ? どうしたのさ」
「ジンくん、こんにちは」
「ルルも一緒なんだね」
返事もせずに開けたものだから、カズチは驚いてしまったようだ。
申し訳ないと思いながらも、立たせたままは悪いので部屋の中に入ってもらう。
昨日のような暗い表情はなく、少しだけだが晴れやかになっている気がする。
「それで、どうしたの?」
昨日話をしたばかりだったので、何か言い忘れていたことでもあったのかと思い聞いてみたのだが。
「あー、その、なんだ。……そうだ! 出発はいつになるんだ?」
「出発は明日の朝って聞いてるよ」
「明日の朝か、早いな」
「ホームズさんは今すぐにでも行きたいみたいだけどね。一応、他の人の準備もあるから」
「そ、そうか」
この感じは、他に聞きたいことがあるみたいだな。
僕はじーっとカズチを見つめることにした。
「……な、何だよ」
「いや、それはこっちのセリフ何だけど」
「うふふ、そう言わないであげて、ジンくん。カズチくんは緊張しているんだよ」
「ちょっと、ルル!」
「……緊張?」
慌てふためいているカズチを見て、僕は首を傾げる。
当のカズチは頬を掻きながら、視線を外して口を開いた。
「……ジンのことが心配だからさ」
「うん」
「……ルルと一緒に魔導陣を勉強して、ケルン石に付与を施したんだ」
「えっ?」
「その、役に立つかは分からないけど、ジンに持っていてほしいと思ってな」
「何かの力になってほしいと思ったの」
そう言って右手を僕の前に出してきたので、その下で両手を広げる。
開かれたカズチの手からこぼれ落ちてきたのは、雫形の、今まで見た中で一番美しいネックレスだった。
「ルルから炎で攻撃されるかもって聞いたからさ。一応、水属性を付与して火属性への耐性が出るようにしてる」
炎での攻撃はあくまで例えであり、ガーレッドの為にと思った発言だったのだが、ここは黙っておこう。
「本当に、小さな効果何だけど……持っていてくれるか?」
「もちろん。肌身離さず身につけておくよ」
チェーンを首に回して下げると、ちょうど胸のあたりでケルン石が煌めいている。
僕は左手でケルン石を強く握りしめ、カズチを見つめながら口を開いた。
「ありがとう。カズチ、ルル。さすがは僕の親友だね!」
「お、おう! 当然だ!」
「またユウキくんやフローラさんとも一緒に遊ぼうね!」
空いている右手で強く握手を交わし、最後には笑いあった。
その後、三人で食堂へと向かい昼食を摂りながら、ガーレッド用の野菜を受取、僕の準備は完了した。
部屋に戻ってからは一度だけ鍛冶を行う。もちろん、ホームズさんに見てもらった。
外で行った鍛冶と同様にランクアップさせることには成功したので、鍛冶師として同行する為の問題も解決に向かっている。
そして——日が変わり、出発の朝を迎えた。
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