ジンとホームズ

 案の定、ホームズさんからは否定の言葉が告げられた。


「それは危険です。狙われているのがコープスさんだと、先ほどの話でも分かっていますよね?」

「分かっています。だからって恩ある人のピンチを黙って見過ごすなんてできません」

「それは大人が考えることです。コープスさんはまだ子供です、ここは私に任せてください」

「任せるつもりですけど、僕も行きます」

「……何の為にですか?」


 あまり苛立ちを見せないホームズさんの語尾が強くなる。

 それでも僕だって引くつもりはない。


「僕でも力になれることがあると思うからです。何もできないと分かっていて、ついて行こうとは思いません」

「……自分を犠牲にするおつもりですか?」


 ホームズさんの言葉にぎょっとするアクアさんとポニエさんだったが、僕はその反応を無視して言葉を続ける。


「そんなことはしませんよ。僕はまだやりたいことがありますから。それに王都に首輪をつけられて従うつもりもありません」

「ならば、やはりここに残っていた方が安全で確実では?」

「そうかもしれません。だけど最初に言った通りです。僕でも力になれることがあるから、行きたいんです」


 僕はホームズさんの眼を真っすぐに見つめて言い放つ。

 視線を逸らそうとしない僕とホームズさんだったけど、数秒後には溜息と共にホームズさんが下を向いた。


「……本当に、頑固なんですね」

「自覚はありませんけど」

「そうですか。分かりました、コープスさんも一緒に来てください」

「置いていかれたら、一人で追い掛けますからね?」

「そんなことはしませんよ。むしろ、その方が怖いですから」

「どういう意味ですか!」

「言葉の通りです。それでは、私は冒険者ギルドに話を通してきます。それまでは皆さん、少し休んでいてください」


 ホームズさんの言葉にアクアさんとポニエさんが立ち上がる。


「それじゃあ、私は一度店に戻ろうかな。今すぐにやることはあるかな?」

「今のところはありませんから、いつも通りに店で仕事をお願いします。こちらの事はカミラさんとノーアさんに割り振るので、アクアさんは出張依頼などがあればお願いします」

「それでは私もクランの方に戻ろうかな。副棟梁には『神の槌』を手伝うことになることをうまく話しておくよ」

「くれぐれもコープスさんのことは内密でお願いします」

「分かっているよ」


 そう言って二人は今度こそ本当に本部を後にした。

 二人を見送った後、ホームズさんが改めて僕へと向き直り王都行きを確認してきた。


「本当に、よろしいのですか? 厄介ごとに巻き込まれるかもしれませんよ?」

「こうなったら仕方ないですよね。まさか僕から問題ごとに突っ込んで行くとは思いもしませんでしたけど」


 肩を竦めながら答えてみせると、ホームズさんは苦笑を浮かべた。


「全く。それでは私も少し出てきますので、コープスさんは部屋で休んでいてください」

「はい。何か準備しておくことはありますか?」

「特にありませんが……そうですね、カズチ君とルルさんには本部を留守にすることを伝えていた方がいいのではないですか?」

「……いいんですか?」

「急にいなくなって誰かから聞くよりも、直接伝えてあげた方が心配しないと思いますからね」

「ありがとうございます」


 そう答えると、ホームズさんは微笑みながら冒険者ギルドへと向かって行った。


 僕は別室にいたカミラさんとノーアさんにも声を掛けて、自分の部屋に戻った。

 ガーレッドもついて行く気満々なのだが、どうしようか迷っている。

 ソラリアさんにはいついかなる時も一緒にいるようにと言われている。悪魔事件の時は長くなるつもりもなかったので置いていったが、今回は何日も掛かる王都への旅となり、さらには結果いかんによってはカマドに戻ってこられるかどうかも分からない。


「……やっぱり連れて行くしかないよね」

「ピッピギャー!」


 置いていくなと両手をパタパタさせて抗議している姿を見て苦笑を浮かべる。

 やはり、今回は連れて行くべきだろう。


「ガーレッドのことは何があっても守るからね」

「ピキャキャン!」


 ガーレッドからも、僕を守るという言葉が飛び出して来たので驚いてしまった。


「ありがとう。一緒に行こうね」


 僕はガーレッドを抱き上げると優しく抱きしめる。

 ガーレッドも小さな腕で僕を抱きしめようとしてくれているが、長さが足りずに脇の下辺りで小刻みに動いてしまい、くすぐったくなり笑ってしまう。

 こんな何気ない時間が癒しに繋がるのだから、今日の僕は相当疲れているのかもしれない。

 鍛冶勝負もそうだけど、最後のゾラさんとソニンさんが捕らえられたという報告が精神的に堪えていたのだろう。


「……僕は、やっぱりここから出て行かなきゃいけないのかなぁ」


 ぼそりと呟いた直後、部屋のドアがノックされた。


『――カズチだけど、いるか?』

「……いるよ、鍵も開いてる」


 僕の返事を聞いたカズチがドアを開けると、そこにはルルもいた。


「……ジン、棟梁と副棟梁が王都で捕らえられたって聞いたが、本当なのか?」


 神妙な面持ちでカズチが口を開いた。

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