考えごと
その後、僕はそのままテントへと戻り鞄の中で眠っているガーレッドを床に寝かせると、
いつ目覚めるのかは分からないけど、早く目を覚ましてほしいところだ。……僕が寂しいのである。
転生してからガーレッドと一緒じゃなかったのは初日だけである。翌日にはガーレッドが生まれて、それからずっと一緒なのだから、半身がいなくなったように感じてしまう。
寝ながら食事をする姿も可愛いが、やはり顔を合わせて、話をしながらの食事の方が僕は好きだ。
この感情は、日本にいた頃では考えられなかった。一人で食事をし、それも早食いで、時には食べない時もあった。
僕にとっての食事は、胃の中に入れてしまえばそれで良いと考えていたのだ。
「……だいぶ変わったなぁ」
見た目の変化だけではなく、内面にも変化が起きている。
本来ならば自分のことを僕ではなく、俺と呼んでいたのだが、見た目のこともありこの世界では僕と呼んでいる。最初は違和感を覚えていたものの、今ではそれが当たり前になっていた。
そして、人間関係も気にするようになっている。
ゲーム第一主義だった僕が、まさか誰かの為に行動しようと思うだなんて、夢にも思わなかった。
ケルベロス事件の時のガーレッドもそうだけど、悪魔事件の時のユウキや、今回のゾラさんやソニンさん、皆が僕にとってかけがえのない存在になっているのだ。
「頑張ろう、この世界で」
ボソリと呟いた僕は、野菜を食べ終わったガーレッドに人差し指を差し出すと、その指を小さな手で掴んでくれた。
僕が不甲斐ないばかりに危険な目に遭わせてしまい、今も僕の為に眠り続けている。
ガーレッドは僕を守ろうと頑張るだろう。だから、僕もガーレッドを守る為に頑張らなければならない。
テントの外からはいまだにヴォルドさんたちの声が聞こえてくる。
森の中でこんなに騒いでもいいのかと心配になってしまうが、そこは何かしら対策を講じているのだろう。明日にでも聞いてみようかと考えた。
「……ね、眠れない」
初めての夜営ということもあり、横になってもなかなか寝付けない僕は、どうせならと今後の予定について考えることにした。
まあ、予定といっても僕の希望を妄想するだけなんだけどね。
当面の目的は何も変わらない。鍛冶スキルと錬成スキルの習得である。
魔導スキルは棚ぼた的に習得できたが、鍛冶と錬成は回数をこなすことが何より重要だろうから大変だ。
……というか、前回スキルを調べてから結構な日にちが経過している。もしかしたら、すでに習得している可能性もあるのではないか? だって、ここ最近の鍛冶の成功率が正直高すぎる気がする。
まあ、もし習得していたとしてもランクアップの為にはさらなる修練が必要なので、鍛冶の手を止めるつもりはない。
錬成スキルは自由に錬成ができないのでどうしても後回しになってしまう。
ソニンさんを助けてカマドに戻った暁には、錬成部屋も造ってくれないか交渉してみようかな。
将来的にはユウキの専属鍛冶師になる予定である。
僕はまだ見習いだし、ユウキも下級冒険者なので、二人で一緒に成長していきたい。
錬成に関してはカズチに任せるつもりなので、僕が錬成を行うのはそれ以外の時になるだろうか。
僕が錬成をする時は……おそらく自己満足で武器を作る時くらいだろう。誰かからお願いされればやるつもりだけど、これも将来的に錬成スキルを習得してランクアップをした時になるかな。
錬成に関してはまだまだ分からないことだらけなのだから、まずは勉強だね。
そして、『神の槌』に関してである。
僕個人としては、ずっと在籍したいと考えている。ゾラさんやソニンさんもそう伝えれば問題ないと言ってくれるだろう。
だが、僕が在籍することで今回のような事件が多発する可能性もあるとなれば、二人が了承したとしても他のメンバーから不満の声が上がってくる可能性も高いはずだ。
そもそも、僕みたいなどこの馬の骨とも知れない新人がゾラさんの弟子になっていること自体が問題なのである。ジュマ先輩の件も、そのことが原因で起こった揉め事なのだから。
もしかすると、僕はいつの日か『神の槌』を、カマドを離れる時が来るのかもしれない。
「……やっぱり、一人で何でもできるようになることは大事だな」
ゾラさんやソニンさんに匹敵する実力を手にするのはまだまだ先だろう。これはチートを用いても、知識がなければどうしようもないと思う。
『神の槌』を離れても知識を深められるか、そこが一番のポイントになりそうだ。
幸いにも、僕にはホームズさんから貰った魔法鞄があるので、もし良さそうな本があれば購入することも考えなければ。
「……それには、先立つものが必要だな」
お小遣いだけでは全く足りないだろう。
ならば、早く商品を売れるように頑張らなければならないが、それをやるにもどうするにも――
「絶対に助け出す」
ゾラさんとソニンさんの存在は不可欠である。
こうして未来のことを考えると、その存在の大きさを改めて知ることができた。
僕にできることは少ないだろうが、やれることはやろうと思う。
そうしていると瞼が重くなり、ガーレッドを抱いたまま眠りに落ちた。
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