一人で向かうは……

 ガーレッドと一緒に目を覚ました僕は身なりを整えてから廊下に出る。

 ユウキの部屋をノックしようか迷ったものの、今日は行きたいところがあるので手を止めた。

 そのまま食堂へと向かい軽く食べられる料理を注文、ガーレッドには新鮮野菜と果物だ。

 毎回同じ食べ物なのだが飽きないのかと思いながらも、とても美味しそうに食べるので満足しているようだ。


 食事も終えてそのまま外へ向かおうとすると、事務室の前でホームズさんと顔を合わせた。


「おはようございます、コープスさん。どちらかに行かれるのですか?」

「おはようございます。ちょっとそこまで」

「……どこに行くのか聞いてもいいですか?」


 な、なぜに不安そうな目で見ながら聞いてくるんですかね!


「ソラリアさんの道具屋です」

「ソラリア婆様の? 何か足りない物でもありましたか?」

「いえ、何か買いたいとかではなくて、ちょっとした相談事です」


 僕の言葉にホームズさんや少しだけ目を見開いたように感じたが……気のせいかな、いつものホームズさんだ。


「そうですか。ソラリア婆様ならコープスさんの相談事も解決してくれると思いますよ」

「だといいんですが」

「安心なさい。あの方は、全てをお見通しですからね」

「どういうことですか?」


 なんだか意味深な言葉に興味が湧いてきた。


「それはソラリア婆様に相談してからのお楽しみです。一人で行くのでしょう?」

「あ、はい」

「そろそろユウキが挨拶に来る頃ですから、早く行った方がいいですよ」


 気になるのは確かだけど、ユウキと顔を合わせると話し込んでしまいそうなので会釈をして本部を後にする。


「ソラリアさんって、何者なんだろう」


 そんなことを考えながら、僕は道具屋へと向かった。


 ※※※※


 いつもと変わらない木の香りに心地よさを感じながら中に入ると、ソラリアさんが椅子に腰掛けてウトウトしている途中だった。


「……おや? お客さんかい?」

「おはようございます、ソラリアさん」

「ピッピキャー!」

「ん? おやおや、ゾラのところの。霊獣の……フルムじゃったか、あの子は大丈夫だったかい?」


 相手が僕だと分かると笑みを浮かべてフルムのことを聞いてきた。

 ソラリアさんも心配してくれていたのだろう、最初にこの質問が出てきたことに僕はとても嬉しくなってしまった。


「大丈夫ですよ。今は『神の槌』本部で面倒を見ています」

「おや? ということは、契約をしたユウキとやらもそっちに行ったのかい?」

「今だけです。ユウキとフルムが契約しているって認知されたら普段通りの生活に戻る予定なんです」

「そうかそうか。ガーレッドの時は大変じゃったからのう、その方がいいじゃろう」


 笑みを絶やさずに何度も頷いているソラリアさん。


「……それで、今日はどうしたんだい? 見たところ、何か悩みがあるようじゃのう」


 そして突然に確信を突いてきた質問に僕は驚いてしまった。


「……また顔に出てましたか?」

「いやいや、めんこいのは普段通りだったよ。ザリウスの時もそうじゃったが、なんとなく分かるんじゃよ」

「ホームズさん?」

「ん? いやいや、それはこっちの話じゃな。それで、儂でよければ話を聞くよ。そのつもりでここに来たんじゃろう?」

「……ありがとうございます」


 ホームズさんの言った通り、ソラリアさんは全てをお見通しなのだろうか。

 事実は分からないものの、聞いてくれると言ってくれているなら話しやすいので僕としては嬉しいことだ。


「僕の、今後についてを相談したいと思っていたんです」

「今後のこと? めんこいのは『神の槌』を出るつもりなのかい?」

「いずれはと考えていたんですが、ゾラさんとソニンさんが王都で捕らわれたことで早めに出た方がいいんじゃないかった思い始めたんです」

「あれにめんこいのは関係ないじゃろう?」

「……そうでもないんですよね」


 苦笑しながらそう答えた僕を見て、ソラリアさんは変わらない笑みを浮かべて話を聞いてくれた。


「北の森で起きた騒動の時も、王都の事件も、少なからず僕が関わっているんです。二人は、僕のせいで巻き込まれてしまったんです」

「そうかい。それで?」

「本当はもっと色々と教えてもらって、恩返しをして、それからクランを出て新しい世界を見に行こうなんて大まかに考えていたんですが、そうも言っていられなくなりそうなんです」

「ゾラもソニンも気にせんだろうに」

「だから二人には相談できないんです。きっと気にするなって言うだろうから、客観的に聞いてくれるソラリアさんに相談したかったんです」

「そうさねぇ」


 そう言ってしばらく黙り込んでしまったソラリアさんを、僕は無言のまま見つめている。

 そして、ソラリアさんはゆっくりと口を開いた。

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