噂話
食事を終えた僕たちは、ゴーダさんがお昼休みに入るまで待つことにした。
酒場ではあるものの、お昼ご飯を食べに来る人も多いようで多くの人が出入りしている。
冒険者も多いようで、お酒は頼んでいないにしても注文も大量で忙しそうだった。
「ここってゴーダさん一人で回してるんですか?」
「そうです。昔は奥さんもいたそうですが、病で亡くなってしまったのです」
「……そうなんですね」
発展した王都とはいえ、病で倒れる人はどの世界にもいるものだ。
この世界特有の病気もあるだろうし比較はできないけど、医療が発達した元の世界でも同じように病気で命を落とす人はまだまだ大勢いた。
技術的なことでは魔法という便利なものがあるけど、それでも万能というわけではないので難しいものだ。
そんなことを考えていると、後ろのテーブルで食事をしている冒険者と見られる三人組から妙な会話が聞こえてきた。
「おい、聞いたか?」
「何がだ?」
「今、城で揉め事が起きてるって話だよ」
「いつもの政権争い? そんなの日常茶飯事じゃないのよ」
「違う違う。いや、違わないけど、また毛色が違うんだよ!」
不穏な空気を感じ取った僕はホームズさんに視線を向けると、ホームズさんも聞き耳を立てている。
「なんでも、王派と国家騎士派で近々何かが起きるんじゃないかって噂だ」
「何かって何よ?」
「……どうも、反旗を翻すとかって噂だ」
そこまで聞いたホームズさんが立ち上がると、突然冒険者たちのテーブルに歩いていく。
「な、なんだてめえは!」
「その話、詳しく聞かせてくれませんか?」
「……タダじゃねえぞ?」
「もちろん、この場の食事代は奢らせていただきます」
そういって懐から中銀貨を一枚取り出してテーブルの中央に置いた。
中級冒険者の稼ぎで銀貨が動くと聞いたけど、三人組は銀貨を見ただけで視線が集まったところを見ると、中級か下級冒険者なのかもしれない。
「ちなみに、お釣りは貰ってくれて結構です」
「椅子を持ってきな。話してやるよ」
噂を知っているだろう巨漢の冒険者が銀貨を手に取ると、ホームズさんは椅子を寄せて話を聞く体勢になった。
僕はカウンターで座ったまま、様子を伺うことにする。
「よう坊主、暇になっちまったな」
「あの場に子供の僕が入ると話の腰を折っちゃいますからね」
「……面白いことを言う坊主だな」
ゴーダさんには不思議がられてしまった。
「まあ、間違ってないではあるがな」
「でしょ? ホームズさんには情報収集してもらわないといけないので邪魔はしません」
「……まあ、いいんだがな。それで、あっちの奴らはどんな話をしてたんだ?」
忙しかったのかゴーダさんまでは聞こえていなかったようだ。
そこで僕が聞こえた内容だけを簡単に説明してみた。
「あー、そっちの噂か」
「ゴーダさんも知ってるんですか?」
「いや、俺が伝えようとした噂とは違うな。おっ、終わったようだな」
振り替えると、ホームズさんが最後にもう一枚中銀貨を差し出して戻ってきた。
その後ろでは三人組がどのように分けるかで相談している。
「てめえら、支払いついでに両替もしてやろうか?」
「「「お願いします!」」」
揃った声に苦笑しながら、ゴーダさんがカウンターを離れてテーブルに向かった。
「どうでしたか?」
「面白い話が聞けましたよ。報告は全員が戻ってきた夜にいたしましょう」
「ゴーダさんの話はまた違うみたいですし、有力な情報があるといいですね」
そこまで話をするとゴーダさんが戻ってきた。
何故かニヤニヤしているのでなんだろうと思っていると、その答えはすぐ後ろから返ってきた。
「「「すいませんでした!」」」
どうやらゴーダさんはホームズさんが
情報収集をしていたのだとホームズさんが伝えると、三人組は安堵した様子で酒場を後にした。
「ゴーダさん、イタズラが過ぎますよ」
「がははっ! たまにはいいじゃないか!」
ホームズさんの困った顔はここ最近何度か見たけど、今日の表情はまた一段と困っていた。
二人の関係性はとても良好のようだ。
「それで、噂についてだったな。さっきの冒険者で昼の営業は終わりだったからちょうどいいか」
言われて室内を見回すと誰もいなくなっていた。
もしかして、この時間を待っていたのかな?
「結論から言うぞ──ゴブニュ様は王都にいる」
僕とホームズさんは顔を見合わせると、すぐに視線をゴーダさんに戻して話の続きを促した。
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