談笑と息抜き

 片付けを行いながら深い溜息が漏れる。

 ここまで上手くいかないとなると、もう何をしたらいいのか分からないよ。

 ホームズさんが言うように別のところに原因があるとしか考えられないけど……それが何なのか、さっぱり分からない。


「ホームズさん、何か分かりませんか?」

「コープスさんのことですからね、私には測りきれません」

「それって、どういう意味ですか?」

「一応、褒めているつもりです」


 全くそう聞こえないのは僕だけだろうか。


「それにしても、短時間でよくこれだけ作りましたね。全てが上のランクで出来ているのですか?」

「そうですね。一番良くて二つ上のランクで出来たのが一本、他は全部一つ上のランクです」

「……本当に十分な出来なんですが」


 呆れ顔で呟くホームズさんは、一本一本を手に取って出来を確かめていく。

 しっくりきたナイフでは軽く素振りをしているけど、目で追うことができない。さすが破壊者デストロイヤーである。


「よかったら、そのナイフあげますよ?」

「いいのですか?」

魔法鞄マジックパックの値段から少し差し引いていただけると助かります」

「あれはあげたものですよ?」

「あんな高価な物をタダでなんてあり得ませんの! タダより怖いものはないんですからね!」


 ホームズさんが変なことを考えているとはこれっぽっちも思っていないが、気がひけるのは確かなのだ。

 少しでもお返しができればと思う。


「でしたら、このナイフを頂ければそれだけで」

「ダメです! 何ならこれから作っていくナイフの中で気に入ったものがあれば言ってくださいね、あげますから」

「ありがとうございます」


 ホームズさんは優しすぎるよ。

 事務業務だって、最初はひとりで抱え込んでいたし、『神の槌』の数少ない常識人なのだから気をつけてほしい。

 ……まあ、魔獣を前にしたら性格がガラリと変わるけどね。


 鍛冶部屋を出ると、ベッドの上ではいまだガーレッドが寝息を立てていた。

 鍛冶部屋の音も聞こえていただろうに、相当眠たかったのかもしれない。

 ホームズさんもガーレッドを見たからか、ジェスチャーだけで挨拶を終わらせると部屋を後にした。


「よく眠ってるねー」


 寝顔を見つめながら呟いた僕だったが、一つ問題が生まれてしまった。


「……晩ご飯、どうしようかな」


 いつもならガーレッドを連れて食堂に行くのだが、グッスリ寝ているガーレッドを起こしたくない。

 僕だけで行くのもありなのだが、一度誘拐騒ぎがあったので心配もある。

 前回は入口であり、ここは部屋の中だから安全ではあるはずだが……僕自身が心配性だから仕方ないのだ。


「……そういえば、前にカズチがサンドイッチを持ってきてくれてたな」


 食堂にテイクアウトできる料理があれば、急いで取りに行き部屋で食べることができるかもしれない。

 短時間ならば問題ないだろうと思い至った僕は、ガーレッドの頭を撫でた後、部屋を出て急いで食堂に向かった。


 晩ご飯時期ということもあり、食堂は混雑していた。

 僕はメニュー看板からテイクアウト用のメニューを見つけると列に並び、窓口に立っているルルに注文を伝える。


「ルル! サンドイッチを二つ!」

「ジンくん、今日はお部屋で食べるの?」

「ガーレッドが寝てるからねー」

「分かった、あっちの方で待っててくれる?」


 カウンター脇にあるテーブルを示されたのでそこに座っていること数分、ルルが小走りでサンドイッチが入った袋を持ってきてくれた。


「はい、これ。ミーシュさんがサラダも付けてくれたよ」

「助かるよ、ありがとう! ミーシュさんに今度はゆっくり食べますって伝えて置いてね」


 袋を受け取った僕はルルにお礼を告げて、そのまま部屋へと戻っていった。

 できれば魔導スキルについて話したかったが、この状況では食堂で食べたとしても話は聞けなかっただろう。


 部屋に戻ると、ガーレッドがベッドの上に腰掛けて首を左右に振っていた。

 入ってきた僕を見つけると、両手をパタパタさせて声をあげた。


「ピーキャー!」

「ごめんごめん、寂しかったよね」


 どうやら僕を探していたみたいだ。

 本当に可愛い子だなぁ。

 僕はベッドの端に腰掛けると袋からサンドイッチを取り出す。二つ貰ってきたのはガーレッドが起きていた時のためだ。


「ご飯食べようか」

「ピッピキャン!」


 小さくちぎってはガーレッドの口に運び、僕は僕でサンドイッチを頬張る。

 相当寂しかったのか、サンドイッチを求めるのがとても早い気がするよ。


「焦らなくてもこの後は出かけないよ。食べ終わったら遊ぼうか」

「ピキャ!」


 コクコクと頷く姿に癒されながら、僕はサンドイッチの残りを口に放り込む。

 ミーシュさんが入れてくれたサラダもガーレッドと分けて食べていく。

 ガーレッド分もすぐになくなってしまったので、その後からは遊びの時間だ。

 膝の上に乗っかってきたガーレッドが上目使いでこちらを見上げながら両手を上げている。

 脇の下に手を差し込んで高い高いの時間だ。


「ピッピキャン! ピッピキャン!」

「これ好きだよねー」

「ピピピー」


 ベッドの上でたくさんじゃれあい、そしてお風呂場でもじゃれあった。

 遊び疲れた僕とガーレッドは、再びベッドに入るといつの間にか寝てしまった。

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