原因は何なのか
イメージ力をより強固にしながら銅が溶けるのを見つめている。
カズチとルルの声援を受けたので、ここで今までと同じ結果に終わってしまったら男が廃るってもんだ!
どろりと溶け出した銅が肩に流れ込んでいくのを確認した僕は、槌と鋏を手にしてやや固くなった銅を取り上げて
刃渡り約二〇センチのナイフ、一つの金属から作る切れ間のない形状、至ってシンプルな形を頭の中で形作る。
振るわれる槌も無属性魔法を用いて力強く、それでいて強過ぎない力加減を意識した。
――カンッ! カンッ! カンッ!
大体の成形が終われば、細かなところを小さな槌に持ち替えて整えていく。
最終的には水につけたタイミングで出来上がるのだが、今この段階から意識しなければ最終的な完成形が上のランクにならないのだと信じての作業だ。
時折熱を加えながら、ゆっくりとではあるけれど確実に成形を行い、僕は一つ頷いた。
ゴクリと唾を飲み込むと、桶の水にナイフを入れる。
ジュワー! と熱されたナイフが一気に冷やされた瞬間――ここ最近では見ることのなかった大きな光が桶の中から現れた。
「おぉーっ!」
「すごーい!」
カズチとルルの声が聞こえてきて少し嬉しくなる。
だけど取り出してみるまでは安心することができない。
光が収まり、僕はゆっくりとナイフを取り出す。見た目には一つ上のランクと同じように見える。
実際に手に取って眺めてみた。
「……成功、かな?」
「コープスさん、見せてもらっても良いですか?」
「はい、お願いします」
ホームズさんにナイフを手渡すと、先端から刀身、柄に至るまでじっくりと確認している。
ドキドキしながらその答えを待つこと数分、こちらに向き直ったホームズさんは笑っていた。
「二つ上のランクで出来上がっていますよ」
成功の事実に、僕は飛び上がりたい気持ちだったがそれを押さえ込んだ。
今はそれよりも確認しなければいけないことがある。
「ホームズさん、なんで上手くいったと思いますか?」
たまたま上手くいった、ではダメなのだ。
この成功を取っ掛かりにして今後も上手く出来るようにしなければならない。
「私が見ている限りでは、前回と変わったところは特にありませんでした。コープスさんの実感ではどうですか?」
「僕も特に変わったことはないと思います。強くイメージしましたけど、それは普段もやっていました」
「「……うーん」」
僕自身の違いではないのか?
首を傾げながら周囲に目を向ける。
「……ん?」
普段と違うところ、あった。
だけどこれが原因ってことはないと思うけどなぁ。
「どうしました?」
「いや、普段と違ってカズチとルルがいるなーって思ったんですけど」
「えっ、俺たちか?」
「何もしてないよ?」
困惑顔のカズチとルルだけど、僕も困惑していた。
二人が成功の要因だった場合、その理由がさっぱり分からないのだ。
「二人が要因ということはないと思いますよ」
「そうなんですか?」
そこに声をかけてきたのはホームズさんだ。
「二人がいたから、コープスさんの中で何か違う感情が生まれていませんか?」
「違う感情ですか? ……うーん、必死だったから分からないかも」
「そこが重要なんだろ! 何か考えなかったのか?」
カズチの言葉を受けて再び考え始める。
二人がいたから何か変わったこと、変わったこと……あっ!
「ここでやらなきゃ男が廃るって思ったよ!」
「……はあ?」
「何それ?」
「いや、だって、せっかく友達が見に来てるのに失敗ばっかりじゃ格好がつかないでしょ?」
「ふむ。コープスさんの気合の入れ方にも要因がありそうですね」
僕は毎回気合を入れているつもりですけど。
「誰かに見られていると思うのも一つの手かもしれませんね」
「誰かに見られている、ですか? 毎回ゾラさんやソニンさんやホームズさんに見られてましたけど」
「私たちは監視の意味合いが強いですからね。単純に見に来ている人がいる、そう思うことですよ」
監視ですか。まあ、そうでしょうね。
鍛冶部屋を自由に使えるなら毎日、何時間でも槌を振るいそうですから。
「とにかく、今日は三の鐘も鳴りましたし終わりにしましょう」
「えっ! ……いつの間に」
集中し過ぎて気づいていなかったよ。
時間を過ぎるとは思っていたけど、まさか聞こえないとはね。集中力も精度に関係するのだろうか。
「はいはい、考えるのは片付けた後にしましょう。時間も押してますよ」
ホームズさんが手を叩いて僕を現実世界へ戻すと、さっさと片付けを開始した。
二つ上のランクで出来上がったナイフは棚の目立つところに飾り、残る四本のナイフは引き出しに片付ける。
カズチに傷物の扱い方を示した手前、僕もこれらのナイフを何かに利用できないか考えなきゃいけないな。
鍛冶道具も所定の位置に戻した僕は、ガーレッドを抱き上げてみんなと一緒に鍛冶部屋を後にした。
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