気を取り直して

 魔獣が集まってこなかったのは幸いだった。

 しかし、マリベルさんが肩を落としているのに対してソニンさんは自身の行動を気にすることなくいつも通りに馬車に乗って外を眺めている。

 僕たちはすでに出発しており、斥候にはユウキとマリベルさんの両方が出ている。僕たちの護衛はグリノワさんが買って出てくれた。

 フローラさんが言うには、グリノワさんの体に毒の類は何もなかったらしい。

 おそらく、大爆発の影響で強い魔獣の死体が中央に移動していたのでは? ということだ。


 気を取り直して出発してからは魔獣と遭遇することはあっても群れではない。

 このことから、やはり魔獣の好きな臭いが原因だったのだろうとグリノワさんは結論付けた。

 このことはラドワニの冒険者ギルドにも報告するということなので、物騒な奴らがこちら方面に進んでいればすぐに捕まることだろう。

 だが、仮にカマド方面に進んでいたら……どうなるのだろうか。

 僕の心配がやはり顔に出ていたのだろう。ソニンさんがその答えを教えてくれた。


「ギルドからギルドへ、情報は共有されます。わずかながらの時間差はあるでしょうが、今回の騒動についてはカマドの冒険者ギルドにも伝わりますよ」

「そうなんですね、よかった」


 カマドには優秀な冒険者が揃っている。

 もちろん依頼で外に出ている人もいるだろうけど、それでも多くの冒険者がいるのだから問題はないだろう。

『神の槌』に関して言えばホームズさんがいるわけだしね。


「それにしても、いったい誰が何の目的で魔獣の好きな臭いなんて」

「それを我々が考えても意味のないことです。そのことが分かる人は、その輩と同じ思考を持つ者なのですから」

「……はい」


 想定外のことはあったものの、道程は予定とほぼ変わらずに消化することができた。

 このままなら明日にはラドワニに到着できるだろうとグリノワさんは言っていたのだが……やはりというか、今回の野営地も荒れに荒れていた。


「まあ、魔獣がいないだけでも良しとするべきかな」


 そう口にしたのはマリベルさんだ。

 グリノワさんとソニンさんがすぐに整地を終わらせてくれたので今は休憩中で、斥候にはユウキが出てくれている。


「確かにマリベルさんの言う通りですけど、毎回これでは面倒臭いですよね」

「まあ、私はいつもの仕事をするだけだから問題はないんだけど、ちょっとばかし気を張り詰めちゃうわよね」

「グリノワさんがいてもですか?」

「いるからよー。もちろんケヒートさんやジンを危険に晒すつもりはないけど、ゴルドゥフさんがいる前で失敗なんてしたらどやされちゃうからねー」

「あの、僕はすでに魔獣の群れの前に行かされたんですけど?」

「あ、あれはゴルドゥフさんが勝手に連れて行ったんだもの! 仕方ないわよ!」


 まあ、それもそうか。

 それにあの時は僕も納得して行ったのだから、まあいいか。


「そうそう、ハピーはどうしたんですか?」

「んっ? ハピーも斥候に出てるわよ」

「……えっ、一匹で?」

「うん、それが当然だけど? 普段も私とハピーは分かれて斥候として出ているわけだし」


 霊獣ってそんなこともできるんだ。


「霊獣は魔獣の気配を瞬時に察知するわ。どれだけ鍛えた斥候よりも優れていると言えるわね」

「でも、危険ではないんですか?」

「それを言ったら私たちだって危険だわよ。安全に斥候ができるなんてあり得ないわ。ジンが霊獣を大切に思う気持ちは分かる、私だってハピーが大切だもの。だけど、私は冒険者。ジンとは違うのよ」

「……そう、ですよね」


 僕とマリベルさんでは立場が違い過ぎる。

 霊獣がパートナーであることに変わりはないが、僕は生活を一緒にして楽しく過ごすパートナー。

 マリベルさんは冒険者として魔獣と戦う為のパートナー。

 その時点で霊獣に求めるものが全く違うのだ。


「でも、ガーレッドちゃんもジンを守りたいと思っていると思うけどなー」

「……それは、分かります。王都に行った時もそうでしたから」

「ピキャー! ピッピピー!」

「あら、やっぱりそうなのねー」


 やはりというか、ガーレッドの思いも霊獣としての本能ということなのだろう。

 なるべく危険には近づかずに過ごしていきたいのだけど……まあ、今の目的がラトワカンで魔獣素材を取りに行くっていうものなのだから危険に自ら近づいているわけで、そのうちまたガーレッドに助けられる日も来るのだろう。


「……ねえ、ガーレッド」

「ピキャー?」

「僕は危険が嫌いだ。争いが嫌いだ。だから、なるべく危ないことには近づかない予定なんだけど、もし危なくなったらまた助けてくれるかな?」

「ピッキャキャーン!」

「ふふ、ありがとう」


 ガーレッドの頭を撫でながら、僕はご飯を食べさせる。

 口に含みながらとても嬉しそうなガーレッドを見ていると、どうやら僕の答えはガーレッドの満足いくものだったのだと思いたい。


「ガーレッドちゃんは大きくなったらどうなるんだろうねー!」

「相当大きくなるみたいですよ?」

「へえー、楽しみだね! フルムもいるし、ケヒートさんのところは霊獣大集合だね!」

「なんですか、それは。ですがまあ、可愛いものが集まるのは大歓迎ですけれど」


 最終的には和やかな雰囲気となり、今日一日は終了となった。


 ※※※※

 宣伝マラソン四日目です!

 2020/02/05(水)に『カンスト』3巻が発売となります! 明日です!

 これも皆様の応援のおかげでございます、本当にありがとうございます!

 さて、何を伝えましょうか……昨日の時点である程度のことを伝えてしまいましたよ!笑

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 ※※※※

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