鍛冶勝負とは
僕とカズチはそのまま部屋に戻るつもりだったけど、ホームズさんが気を利かせてくれて事務室に案内してくれた。
外のやり取りが気になっていたのか、中に入るとカミラさんとノーアさんと目が合い軽く会釈を返す。
カミラさんは笑顔で手を振ってくれたけど、ノーアさんは顔を背けてしまった。
……あれ、僕何かやっちゃったのかな。
「コープス君は何かしら騒動の中心になりますね」
「僕のせいじゃないですよ? 騒動が寄ってくるから悪いんです」
「それを回避しようとしないジンも悪いけどな」
「あれって回避できたの?」
「完全に煽ってたじゃないか!」
「友達のことを悪く言われたら、そりゃあ怒るよね」
「それはそうだけど、時と場合を考えような? 俺はあれくらいで怒らないし」
「カズチが怒らなくても僕が怒るよ」
「なんでだよ!」
僕とカズチのやり取りを苦笑しながら眺めていたホームズさんだが、タイミングを見計らって口を開いた。
「しかし、鍛冶勝負ですか」
「楽しそうですよね!」
「そこは置いておくとして、あまり目立つ行動は避けて欲しかったんですよね」
「そうなんですか?」
「……だからコープスさんの部屋に鍛冶部屋を作ったんですよ」
「……そうでした、すいません」
うぅぅ、これってソニンさんにものすごく怒られる案件かもしれない。
英雄の器があるから鍛冶場での鍛冶も禁止されてたんだっけ。
鍛冶ができるからって浮かれてしまったよ。
「まあ、受けてしまったものは仕方ありませんね。これがコープスさんの行き詰まりを解決につなげられるよう取り組みましょう」
「ホームズさん、大人ですねー」
「ジンが子供なんだよ」
いや、実は大人なんですよ。
確かにジン・コープスとして生き始めてからはだんだんと子供寄りになっている気がするけど、記憶としては大人なんです。
「やるからには勝ちたいんですけど、鍛冶勝負ってどうやって判定するんですか?」
「基本的には同じランクの素材を使って決められた武器を作ります。出来上がった武器がどのランクになっているかを競います」
「上になるか、同じか、下になるかってことですね。同じだった場合は引き分けってことですか?」
「基本はその通りですが、ルールによってはランクだけでなく出来栄えで判定することもありますから、そこはジュマに確認が必要でしょう」
それは困った。
僕が行ってもちゃんと教えてもらえるか怪しいんだけど。
「……はぁ。俺が聞いてきてやるよ」
「えっ! いいの?」
「会いに行けないって顔してたし」
「ま、また顔に出てた?」
「ものすごく出てたぞ」
嬉しいような、悲しいような、難しいところだね。
「それでは、ルールの確認はカズチ君にお願いしましょう。コープスさんは鍛冶の精度を上げられるよう練習ですね」
「そうなんですけど、夜しかできませんからどうでしょうか」
「この後は私が時間を作ります。本来は夜だけだったんですが……カミラさん、ノーアさん」
おもむろにふたりへ声をかけたホームズさん。
カミラさんは笑顔で近づいてきたが、ノーアさんは嫌そうな顔をしている。
いや、マジで僕、何かやったのか?
「明日から三日間、申し訳ありませんが午前中の二の鐘から三の鐘の中頃まで仕事をお任せしてもよろしいですか?」
「私は構いませんよ〜」
「……」
「ノーアさん?」
口を引き結び俯き加減のノーアさんは、顔を上げるとホームズさんに口を開く。
「……どうして、コープス様だけを特別扱いするのですか?」
「どういうことでしょう」
「私も仕事を任されることに異議はありません。ですが、その鍛冶勝負とやらを受けたのはコープス様であり、コープス様の責任です。それにザリウス様が関わる理由が分かりません」
「私が関わる理由、ですか」
顎に手を当てて考え込むホームズさん。
……いや、それよりもなんでノーアさんはそこまで突っかかってくるんだろう。
思い当たることといえば……悪魔事件の時について行けなかったことぐらいかな?
「私はコープスさんに感謝しているんですよ」
「感謝?」
「おふたりがこちらに来るまでは、事務作業をひとりで行っていました。私の性格のせいですが、ゾラ様やソニン様にも相談ができずにひたすら仕事漬けの毎日。コープスさんは『神の槌』へやってきた初日に、初対面の私の顔色を見ただけで見抜き、ゾラ様に事務員補充を直談判してくれたんですよ」
「……コープス様が?」
うっ、その視線、ものすごく疑われてる。
そりゃあこんな子供が分かるはずないって思われるのも仕方ないけど、事実は事実だからどうしようもないよね。
「コープス様は不思議な方ですね〜」
「えっ? あ、はぁ」
「ノーアもそんなに怒らなくていいじゃないですか〜」
「な、何を言ってるんですか! 私は怒ってなどいませんよ!」
「そうなんですか〜。それなら問題ないですよね〜。よかったですね、コープス様〜」
「いや、それとこれとは違う――」
「はい! この話はこれで終わりです〜。ザリウス様は明日の仕事の割振りをお願いしますね〜」
……ま、まさか、カミラさんがこんなにも強引な人だとは思わなかったよ。おっとりとした人だと思っていたからなぁ。
「……わ、分かりました! やります、やりますとも!」
「おふたりとも、ありがとうございます。本日の仕事終わりにまではお持ちしますので、よろしくお願いします」
おぉぉ、ノーアさんも納得させられちゃったし。
のっしのっしと自分の席に戻っていくノーアさんを尻目に、カミラさんは僕にウインクをしてから戻っていった。
どうやら、助けてくれたらしい。
「あのふたり、良いコンビかもしれませんね」
「本当に助かっていますよ」
夜の二の鐘まではまだ時間があったので、僕とカズチは一度部屋に戻ることにした。
「……キュリオスさん、意外に怖いんだな」
「……ピキュキュ〜」
その道すがら、カズチの口からポロリと溢れた感想とガーレッドの感想が同じだったことに僕は大笑いしてしまった。
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