試合結果と雑談と

 僕は何と声を掛けていいのか分からずに自作のナイフを持ったまま途方に暮れていたのだが、ホームズさんが前に出てきてナイフを受け取ると、そのままジュラ先輩の方に歩いて行く。


「ジュラ君、結果は結果です。コープスさんのナイフを見てみますか?」

「……は、はい」


 手渡された僕のナイフを見たジュラ先輩は、歯を食いしばりながら声を漏らす。


「…………俺の、負けです」


 ジュラ先輩の言葉に、周囲がざわつくことはなかった。それほどに僕の打ったナイフが高ランクアップしているのだろう。

 自分ではどれ程のランクアップをしているのかまでは分からないが、もしかしたらファンズナイフと同等のランクになっているかもしれない。


「そうですね。正直、私もこの結果は驚きでしたがコープスさんは規格外なので気にする必要はないですよ」

「えっ?」

「彼はゾラ様の弟子です。それが規格外でなくて何だと言うんですか?」

「それは! ……はい、その通りです」


 ゾラさんって、どれだけ凄いんだよ。むしろゾラさんが規格外だからこんな感じになるんじゃないのかな。


「さて――鍛冶勝負は終わりました! 皆さんはご自分の仕事に戻ってください!」


 ホームズさんの号令を聞いたギャラリー達はパラパラと鍛冶場を後にする。鍛冶師達はこの場で鍛冶を行うので残っていたが、さすがにすぐには仕事に取り掛かることができないでいる。


「……場所を移しましょうか。コープスさんもジュラ君もそれでいいですか?」

「いいですけど、まだ何かあるんですか?」

「色々と説明をしなければいけませんからね。それに――後ろの人達が興味津々ですよ?」

「後ろの人達って……あー、そのようですね」


 ホームズさんの後ろには今にも話を聞きたがっているアクアさんとポニエさんがこちらをウキウキした表情で見ていた。


「場所は私の部屋でいいでしょうか?」

「いいですけど……この人数、入りますか?」


 ホームズさんに僕とジュラ先輩、それにアクアさんとポニエさんとなれば五人である。僕の部屋よりは広いだろうけど、さすがに多いのではないだろうか。


「大丈夫ですよ。それでは行きましょうか」


 全く問題ないという感じで歩き出したホームズさんが歩き出した。

 僕はカズチからガーレッドを受け取り、目線で『行ってくる』と合図を送るとすぐに歩き出す。

 その後ろにポニエさん、ジュラ先輩はアクアさんに肩を組まれて励まされながらついて来ていた。


「あの、ホームズさん」

「どうしました?」


 僕は向かいながらホームズさんに声を掛ける。


「僕のスキルに関しては……」

「もちろん言いませんよ。ですが、上手く説明しないことにはアクアさんもポニエさんも質問攻めにしてきますから。それは嫌でしょう?」


 僕は無言で頷いた。


「私がうまく説明しますから安心してください」


 ポニエさんは大丈夫そうだけど、アクアさんは絶対に根掘り葉掘り聞いて来そうなので、ここはホームズさんに任せるべきだろう。

 それよりもジュラ先輩だ。

 この結果を受け取り切れていないジュラ先輩はホームズさんが説明をしても食い下がってくるんじゃないだろうか。

 一抹の不安を抱えながら、僕たちはホームズさんの部屋に到着した。


 ゾラさんの部屋のように実用的なものが多く華美な装飾はなかったが、冒険者の名残なのか悪魔事件の時に身に纏っていた装備一式が綺麗に手入れされた状態で飾られている。

 その他にも当時の戦利品なのか様々な置物が飾られている。中には素材のようなものもあるが、明らかに鉱物ではなく魔獣の素材だろうなと確信を持てるものまであった。


「さてさて見習い君、あれはいったいどういうことかな?」

「ほんにそうよ。お主は本当に見習いなのか?」


 アクアさんとポニエさんが続けざまに質問をしてくるが、僕は答えずにホームズさんに全てを任せることにした。


「コープスさんはゾラ様の弟子です。それが全ての答えになると思っていますよ」

「ホームズさん、それじゃあ答えになってないよー!」

「その通り。それだけでごまかされるような私達じゃない」


 顎に手を当てて考え込む――ふりをしているホームズさんだが、次に出てきた言葉は僕の予想外の答えだった。


「ゾラ様の規格外ぶりはお二人もご存知でしょう?」

「まあ、あの人はねぇ」

「うむ、スキルもあるがそもそもが規格外」

「その通りです。その規格外が弟子にした人ですよ? それが規格外でなくてどうするのですか」

「えっ、いや、僕ってそういう立ち位置なんですか?」


 あまりの暴論に反論したくなったのだが、ホームズさんの口は止まらなかった。


「規格外は規格外のことが分かるようですよ。ソニン様がカズチ君を見つけた時のように、ゾラ様もコープスさんを見つけられたのでしょう」

「まあ、カズチは才能はあると思うけど規格外かと言われると……」

「うむ、それはいささか言い過ぎではないか?」


 むむ、カズチのことでそのように言われるのは心外である。何を基準にして規格外とするのかは分からないけどカズチは頑張っているし、その才能は本物だと思っている。


「カズチ君は本物だと思いますよ。ソニン様の教えをすぐに吸収していますし、今では個人的に雑貨屋へ商品を卸して経験も積んでいます。そのうち、お二人が驚くような成果を上げると私は確信しています」


 ホームズさんの評価に感激しながら、話が元に戻ったのかそのまま規格外の話になっていく。


「そして、その規格外の度合いでいえばソニン様もゾラ様には勝てません。その結果がコープスさんなのです」


 ……その評価は改めていただきたいですね。

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