ゾラへの感謝を

 ドアを開けると、そこにはゾラさんが立っていた。


「戻ったみたいじゃのう」

「はい。ゾラさんも今戻ったんですか?」


 僕は話をしながらも中へと促しイスを用意する。

 ゾラさんは頷きながら腰掛けた。


「おぉ、すまんのう。ちょっとした用事でな」

「ピキャン! ピキャーン!」

「おぉ、ガーレッドも久しぶりじゃのう」

「ピピー!」


 笑いながらガーレッドの頭をゾラさんが優しく撫でている。

 ガーレッドも気持ちよさそうだ。


「して、ラドワニはどうじゃったか?」

「とても楽しいところでしたよ!」


 そこで僕は道中での出来事、ラドワニでの出会い、そしてラトワカンでの騒動についてを一気に話していった。

 僕の言葉に何度も頷きながら、気になったところに質問を挟み、とても楽しそうに話を聞いてくれた。


「そうか、そうか。一番危なかったのは向かう時だったのか」

「かもしれませんね。ヒュポガリオスやヴァジュリアに関しては事前に準備をして挑めましたけど、魔獣の好きな臭いを放つ道具に関しては予想外過ぎて準備も何もあったもんじゃなかったですし。グリノワさんがいなかったらどうなっていたか」


 おそらく、グリノワさんがいなかったらマリベルさんかユウキが魔獣討伐に向かっただろう。そこであの道具が爆発していたらと考えると……だいぶ怖い想像しか浮かんでこないよ。


「そうそう、その件で儂は冒険者ギルドに足を運んでおったんじゃよ」

「えっ? そうなんですか?」


 ゾラさんから話を聞くと、どうやらラドワニの冒険者ギルドからカマドの冒険者ギルドに連絡が入ったらしい。

 どうやってそんな迅速な連絡ができたのかは気になったが、そこよりも何故ゾラさんが足を運ぶことになったのかを聞いていく。


「冒険者ギルドでカマドからラドワニまで向かう依頼について確認をしていると、ソニンの依頼が見つかってな。それで内容を確認する為に儂が呼び出されたんじゃよ」

「その報告にはソニンさんの名前は出てこなかったんですか? そしたら確認はもっと早かったんじゃ?」

「ラドワニで報告をしたのはグリノワじゃろう? あやつ、よく報告で大事なところを忘れることがあってのう。そこでソニンの名前を出すのを忘れていたみたいじゃわい」


 グ、グリノワさん。なんでもできると思っていたら、そんなところに弱点があったとは。


「それでな、儂が冒険者ギルドで話をしている時に戻ってきたものじゃから、今度はグリノワたちも交えて確認をしていたんじゃよ」

「それって、ゾラさんいります?」

「じゃろう? 何故だか帰してくれなんだ」

「……えっと、お疲れ様です」


 でもまあ、これで犯人が見つかれば全て良しということになるのかな。


「そうだ! ゾラさんにもお土産があるんですよ!」

「儂にか?」

「はい! ラドワニで仲良くなった鉱石店の人がいて、そのお店で買ってきました!」


 僕が取り出した鉱石は、赤と青の鉱石が絡み合ったものだった。

 リディアさんの話では鉱石同士が絡み合ったものは相当珍しいようで、お店の商品としても一点ものだったようだ。


「おぉっ! これは凄いのう! 赤いのは……フレアストーン。青いのが……レインシェルじゃな。しかし相当高かったんじゃないのか?」

「ラトワカンで鉱石を採掘して売ったお金で買いました!」

「……どこからツッコんでいいのか分からんが、まあそういうことか」


 別に変なことを言った覚えはないんだけど、ダメだったのかな。


「ありがたく頂こうかのう」

「貰ってくれないと困ります。これは、僕からゾラさんへの感謝の気持ちなんですから」

「そう言うと思ったわい」


 笑いながら僕の頭を乱暴に撫でてくれる。

 ……あぁ、なんか懐かしいなぁ。


「……そうじゃ、小僧よ」

「なんですか?」


 頭から手をどかしてまたイスに腰掛けたゾラさんは、今まで見せたことのないような優しい笑みを浮かべて口を開く。


「ラドワニやラトワカンへ行って、外の世界を見てみたいと思ったか?」

「……え、えぇ」

「王都に行った時もそうか?」

「はい。まあ、王都ではほとんど見て回ることなんてできませんでしたけど」


 苦笑しながらそう答えた僕に、ゾラさんは笑みを崩すことなく頷いている。


「そうか。……なあ、小僧。お主はカマドを出たいと思ったことはないか?」

「えっ?」


 ゾラさんからはまさかの質問が飛び出してきた。

 カマドを出たいと思ったことはあるかって質問だけど、思ったことは……ある。


「カマドの外の世界を見たいと思ったことはあります」

「そうか」

「……で、でも、僕はカマドから出たいと思ったことは一度もないですよ!」

「まあ、今後の参考までにじゃよ。小僧はまだまだ小僧だからな!」


 今度は今まで見てきた豪快な笑い声をあげながら、もう一度乱暴に頭を撫でてくれる。


「さて、儂はそろそろ戻ろうかのう」

「用事って、これだけですか?」

「そうじゃよ。まあ、さっきの話はついでじゃから、もしそんな気持ちが出てきたら事前に言うんじゃぞ。それではのう」


 言うだけ言ってから、ゾラさんはさっさと部屋を出て行ってしまった。


「……カマドを出る、かぁ。キャラバンのこと、気づかれているのかなぁ」


 頭を掻きながら、今はこれ以上考えることはできないと思い体を流してそのまま眠ることにした。

 ……ちゃんと、考えないといけないかもな。


 ※※※※

 誠に勝手ながら、次回更新からは少しだけ時間を空けさせていただきます。

 ですが、4月中には再度更新を再開いたしますので、それまでお待ちいただければと思いますので、これからもよろしくお願いいたします!

 ※※※※

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