納品先は……

 個室に入るとすぐに三本の剣を確認したいとリューネさんから話が合ったので、僕は魔法鞄マジックパックから取り出した。

 黄金刀おうごんとう金火刀きんかとう黄色刀きしょくとうを机に並べると、リューネさんはごくりと唾を飲み込みながら確認を始める。


「……うわー……凄いなぁ……これ、エグいわねぇ……」


 誉めてるのか貶してるのか、そんなよく分からない言葉を呟きながら確認を進めて一〇分ほどが経つと、リューネさんは顔を上げて天井を見上げるとしばらく固まってしまった。


「……あの、リューネさん?」

「……ねえ、ホームズ君。これを本当にジン君が打ったの?」

「本人がそう言っていますからね」

「……三本とも?」

「はい」

「……そっか」


 ……な、なんだろう、こんな真面目な表情のリューネさんは久しぶりに見た気がする。

 前回はたしか悪魔事件の時に見せた表情だ。


「……ジン君、凄いわね。三本とも、全く問題がない仕上がりになってるわよ」

「あ、ありがとう、ございます」

「どうしたの?」

「えっと、リューネさんが真面目な対応を始めたので驚いていました」

「……今、もの凄く失礼なことを言われてるのかな~?」


 ここまで伝えると、リューネさんは僕が知っているいつものリアクションを返してきた。

 ただ、そのリアクションも一瞬ですぐに苦笑混じりに真面目な理由を教えてくれた。


「まあ、こっちは仕事だからね。真面目にやらないと『神の槌』に迷惑を掛けちゃうから」


 言われてみればその通りである。

 ただ、そう思っているのなら普段の態度からその姿勢を見せてもらいたいものだ。


「頬杖ついて暇そうにしてたのにねー」

「そういう時は仕事がない時なのよー」

「……二人とも、話を戻していいですか?」


 脱線していたやり取りをホームズさんが修正してくれたので、話は三本の剣に戻った。


「ライオネル家の次男は豪奢な作りを優先しているわ。二つ目の依頼人はシンプルな作りの中にある美しさを優先していて、三つ目の依頼人は物珍しい作品を優先しているわね」

「それなら、三つ目の依頼人には黄色刀きしょくとうがいいですね。片刃の剣は珍しいみたいですし」

「そうね。でも、見た目の美しさでいえばキショクトウが一番なのよねぇ」

「でしたら、次男にはキンカトウですか?」

「大剣だし、そこが無難かな」


 次男さんへの武器は簡単に決まったものの、問題は二つ目と三つ目の依頼人である。

 特に二つ目の依頼人はであり作品を求めているが、その両方を兼ね備えている作品はないのだ。

 シンプルを優先するなら黄金刀おうごんとうだろう。諸刃であり一般的な大きさの剣だからね。

 美しさを優先するなら黄色刀なんだけど、これはシンプルとはほど遠い作品だ。リューネさんにも言ったが、片刃の剣はこの世界であまり見ないのだ。


「……二つ目の依頼人にオウゴントウ、三つ目の依頼人にキショクトウを納品しましょう」

「まあ、それが無難ですね。オウゴントウはキショクトウと比べると美しさでは劣りますが、他と比べれば全然美しい作品ですからね」


 その評価は素直に嬉しかった。

 観賞用にと打った作品が美しくないと評価されれば、それは失敗の評価に値する。

 三本全てが形状はどうあれ美しいと評価されたのだ。


「次男さんに納品する金火刀、ユージリオさんも見ますかね?」

「おそらく」

「次男が自慢しに行くんじゃないかしらね」


 自信がないわけではない。ただ、友達の父親からどのような評価が下されるかが気になるのだ。


「会う機会があったら、聞いてみようかな」

「王都に行く予定があるのですか?」

「いえ、ないんですけど、ユウキが里帰りする時に一緒に行けたらいいねって話をしているんです」


 実現するかはまだ分からないが、もし実現できればその時は王都を満喫することができるだろう。

 それにユウキが案内してくれるとなれば地元民しか知らない穴場なんかにも連れて行ってもらえるんじゃないかと内心では期待したりしている。


「えぇー! 面白そう、私もついて行っていいかしら?」

「リューネさんは仕事があるじゃないですか」

「シリカに任せれば問題なーし!」

「シリカさん、かわいそうに」

「大丈夫よー。あの子も王都での交渉から帰ってきてから変わったんだからね」


 そう口にした時のリューネさんの表情は、妹を見守るお姉さんみたいに優しい笑みを浮かべていた。

 なんだかんだでシリカさんのことを考えているのかもしれない。


「まあ、本当に実現するかは分かりませんけど、もしそうなったらユウキに聞いてみます」

「ありがとね! うふふー、王都のデザートってとっても美味しいのよー!」

「そうなれば、ゴーダさんにもよろしく言っておいてくださいね」

「もちろんです! 僕もゴーダさんにはまた会いたいですし」


 そうなったらいいなと思いながら雑談は終わり、僕の打った三本の剣は全てリューネさんを通して納品されることになった。

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