奥の方から……

 進みながらも気になった鉱石を採掘していくと、やはり奥に進むにつれて大きな鉱石を掘り当てることが増えてきた。

 中には袋の口より大きなキルト鉱石まで出てきたので入るのかと心配になったが、不思議なことに吸い込まれるようにして入ってしまった。

 中ではどのような形になっているのか気になったので入れた鉱石を出してみたが、元の形で出てきたので問題ないのだと安堵しまた中に入れる。

 魔法鞄マジックパック、マジで不思議で便利だわ。


「これ以上は危険だね」


 その時、ユウキが声を掛けてきた。


「なんで分かるの?」

「これを見てよ」


 ユウキが指差したのは壁に刻まれた三本の線だった。


「これは先人が刻んだ危険度を示す印なんだ。僕が師匠と来た時も見てたんだけど、三本線のその先は相当危険だったんだよ」

「……その先に進んで余裕だったホームズさん」

「ユウキ様のお師匠様は本当に凄いのですね!」


 呆れ顔の僕と少し興奮気味のフローラさん。

 まあフローラさんは悪魔事件の時に助けられたからっていうのもあるかもしれないね。


「大きい鉱石も見つかり始めたし、ここでたくさん採ったらそのまま帰ろうかな」

「そうだね。バルラットが現れたらよろしくね」

「ユウキに言われるのはなー」

「あはは。魔法に関してはジンの方が凄いからね、頼りにしてるよ」

「うん、任せてよ」


 それから数十分ほど採掘作業を行った僕たちは、数キロ単位のキルト鉱石の採掘に成功した。

 その中には大きさも形も綺麗に整ったものが数点あり、これを売るだけでも相当な儲けになりそうだ。

 魔法鞄持ちがいたらこれを繰り返せば相当儲けられそうなんだけど、そう上手くはいかないものなのかな。


「たぶんだけど、カマドでは銅の物価が安いんだ。それは麓で多くの銅が採れるからだと思うんだけど、キルト鉱石もたくさん売られたらその分物価が下がっちゃうんじゃないかな」


 何でもかんでもたくさん売ればいいってものじゃないってことだね。

 反省しながらも、これくらいなら問題ないはずだと自分を納得させて立ち上がった。


「あまり採り過ぎても次に来る人に申し訳ないし、戻ろうか」

「そうですね。……バルラットが現れても嫌ですし」

「最後の方が本音だねー」

「だって、本当に嫌なんですもの!」


 頬を膨らませて怒るフローラさんに、僕とユウキは顔を見合わせて笑ってしまう。

 さっきみたいにテンパることはないようで、だいぶリラックスできているみたいだ。

 雑談をしながら来た道を戻ろうとした――その時である。


「――うわああああぁぁっ!」


 洞窟内に反響する叫び声。聞こえてきた先は、洞窟の奥からだ。


「だ、誰かがこの先に行ってたのか!」

「まずいな、このままだと奥にいる魔獣がこっちまで雪崩れ込んでくるかもしれない!」

「……ということは、まさか、バルラットの大群ですか!」


 落ち着いていたフローラさんがガタガタと震え出している。

 このままここにいるのはまずいけど、今この場から逃げ出せば奥にいる人を見殺しにすることになる。


「フローラさん、僕が魔法でバルラットを一掃します。だから安心してください」

「……は、はい」

「ユウキは奥から逃げてくる人の近くにいる魔獣を倒して助けてほしい」

「問題ないよ」

「もし怪我をしているようだったら、大変だろうけど回復はフローラさんにお願いするね」

「もちろんです!」


 落ち着きを取り戻したフローラさんに安堵した後、奥からやってくるだろう人と魔獣に身構えることにした――そして。


「――見えたよ!」

「えっ! あれって」

「知り合いなの?」


 驚きの表情を浮かべるユウキだが、僕の問いに答えてくれたのはフローラさんだった。


「……私の、元パーティメンバーです」

「……あー、そうなんだ。えっと、助ける?」


 もちろん助けるつもりだが、ユウキとフローラさんの気持ち次第でもある。二人が手を貸したくないと言うのなら、僕は魔法で魔獣を一掃するだけに留めようと思っていた。


「助けましょう」

「フローラさんが言うなら、僕も手を貸すよ」

「二人とも、いいの?」

「彼らとはもうパーティではありませんが、見捨てるのは後味が悪いですから」

「僕も冒険者なら助かる為に時には仲間を見捨てるのも選択肢としてはあると思っているからね。選択するかは別だけど、彼らを恨んでいるとかはないからさ」


 二人の意志を確認して、僕は火炎放射の準備を始める。


「いきなり放つとあの三人も巻き込みそうだから、ユウキにお願いできるかな」

「もちろん、それじゃあ行くよ!」


 無属性魔法で駆け出したユウキが逃げてくる三人とすれ違い、刀身が長い普段使いの剣を横薙ぐ。

 正面にいたバルラットの首が二つ吹き飛び、直後には一気に後方へ飛び退く。

 動かなくなったバルラットの死体に引っかかり転倒した魔獣たちとの距離が開けた瞬間、待ってましたとばかりに僕は火炎放射を解き放った。

 薄暗かった洞窟内が一瞬にして夕焼けのような赤に染まる。

 結果――数十といた魔獣の群れは逃げ場のない洞窟内で灰になってしまった。

 討伐証明を持って帰れないのは残念だが、命に代えられるものはないのだと先ほどのフローラさんの言葉を思い出して気持ちを切り替える。


「ふぅ。三人とも、大丈夫?」

「あ、お前、誰だ? それに、ユウキと……フローラ」


 疲労困憊という感じでリーダーと思われる少年が口を開く。


「ポットさん、まずは怪我を見せてください。回復魔法を使いますから」

「……すまん」


 この場で言い合う元気はさすがにないのだろう。ポットと呼ばれた少年は素直に怪我をしたところを見せてフローラさんの回復魔法に掛かっていた。

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