閑話:ソニン・ケヒート

 コープス君に魔獣素材を手に入れる方法としてラトワカンまで来ましたが……本当に驚かされることばかりですね。

 話には聞いていましたが、まさか外で鍛冶をするとは。それも、その出来があまりにも素晴らしい。

 ……こんなことを思うのはいけないことだと分かってはいるのですが、ユウキ君はとても運が良かったのではないでしょうか。


 ブレイブソード。

 あれはおそらく大金貨相当の武器になっている。今までの傾向から……伝えない方が無難でしょうね。

 ファンズナイフもあるのですから、グリノワ様が言うように早く中級冒険者になってもらわない色々と苦労してしまうかもしれません。

 ……いえ、上級冒険者くらいにはなってもらわないといけませんか。


 まあ、上級となるとグリノワ様までとは言わないですが、あの方もまた規格外ですね。

 まさか、廃坑となったはずのラトワカンで大量の鉱石を発掘してしまうとは。

 担当者が無能だった、と仰っていましたがグリノワ様の能力に匹敵する者がどれだけいるでしょうか。

 冒険者としても超一流ですが、鉱夫としても超一流ですからね。


 それにしても、今回の素材回収は問題だらけでした。

 野営地が荒れていたり、魔獣を集める謎の道具、目的のラトワカンでも同じ物が使われた形跡があり予定外の上級魔獣。

 もしかしたら、グリノワ様がいなければ危険だったかもしれません。私たちが無事でも、マリベルやユウキ君、フローラちゃんの方が危なかったかも。

 ……本当に、コープス君の人脈には感謝するしかありませんね。


 ラドワニでも早速、人脈を広げていたようです。

 鉱石店のリディアさんと言いましたか、なんとも面白い方でした。

 いきなりサインをお願いされた時は驚きましたが、店内に並んでいる鉱石を見た限りでは良い目利きをしているようでしたし。

 私も今後ラドワニを訪れることがあれば、リディアさんのお店で仕入れるのも悪くはないかもしれませんね。


 そして、ラドワニに来たもう一つの目的。

 弟子のリーリはしっかりとお店を運営できているようで安心しました。

 まあ、鉱山がどんどんと閉鎖になっているせいで苦労はしているようでしたが。


「そうそう、リーリ。その鉱山の件ですが、しばらくの間は問題が解消されそうですよ」

「解消って、そんなわけないじゃないですか」

「ふふふ、それが本当なんですよ」


 そこで私はラドワニの周辺では一番の大鉱山であるラトワカンがまだ死んではおらず、鉱石も山のように眠っていることを教えてあげました。

 最初は半信半疑だったようですが、コープス君がヒューゴログスとアクアジェルを取り出して見せると、そこでようやく信じたようだ。

 そして、安堵の声をあげていました。

 仮に調べていた担当が私腹を肥やすために嘘の報告をしていたとしたら……その担当は相当な罰を受けるでしょうね。

 最悪、財産を没収されてラドワニにはいられなくなるのではないでしょうか。


 コープス君とリーリの顔合わせもできましたし、リーリも錬金素材の販売に必要な鉱石を買取ってくれましたから、お互いにも良かったかもしれません。

 そして、私としては一番の驚きはこれですね。


「まさか、私に隠れて錬成をしていただなんてね」


 コープス君からプレゼントされた錬成済みのヒューゴログスとアクアジェル。

 師匠として、そして同じ錬成師として、これほどの素材をプレゼントされるのはとても嬉しい限りです。


「……うふふ、もう師匠とは名乗れないかもしれませんが」


 魔導陣による付与はされていませんが、単純な錬成の質で言えば私と同等、もしかしたらそれ以上になっているかもしれません。


「まさか、弟子にこれほど早く追い抜かれるとは思っていませんでしたよ」


 私を追い抜くのはカズチだと思っていましたが、正直驚きです。


「コープス君はスキルの力だと謙遜するかもしれませんが、それもあなたの一部なのですよ」


 自分のスキルなのだから、謙遜する必要はありません。むしろ、その力を使いこなしているのだから胸を張るべきなのです。


「これは、私もより精進しなければなりませんね」


 今が私の限界ではないと、教えられた気分です。

 ……まだまだ上を見ましょう。ゾラ様を支えるために、神の槌の為に。

 そんなことを考えながら、私は明日の出発の備えて久しぶりのベッドで眠りについたのです。

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