作戦会議

 そう言えばケルベロス事件の時も途中退場していたよ。あの時は僕が動いていたから良かったけど、今回はどうなるんだろう。


「魔法も相当ぶっ放してるし、ジンの意識に切り替わってもぶっ倒れるだろうね」

(――絶対に殺されるよね!)

「まあ、そうだろうね」


 ちょっと待ってよ、ヤバイじゃん!

 待て待て待て待て、考えろ考えろ、じゃないと確実に死ぬ!


(――こうなったら重傷覚悟で全力の水弾を結界にぶつけよう!)

「それがダメだったら終わりだよ?」

(――ぐっ! ……でも、他に手はないぞ?)

「あっ、口調が前みたいになったな」

(――今はそんなことどうでもいいだろ!)


 こいつはなんでこんな時でも飄々としていられるんだ。何か秘策があるのかと思えばそうでもないし、訳がわからん。


「まあ、そろそろ他のところが終わる頃だと思うよ」

(――他のところ?)


 エジルに指摘されてハッと思い出す。


「ジン!」

「ジンくん!」

「ジンじゃないけど、はーい」


 ユウキとリューネさんが対峙していた魔獣を倒して加勢に駆けつけてくれた。こうなれば三対二、数の上では有利になった。

 悪魔の相手はエジルにしか出来ないので、二人にはケルベロスの相手をしてもらえれば集中することが出来るし、水弾を結界に撃ち出すことも可能なはずだ。


「結界を破壊したいんだけど、君たちの最大の攻撃を教えてくれないかな」


 そう思っていた僕とは違い、エジルは二人に攻撃魔法について問い掛けた。


「私は水弾かな。あなたの水弾を見ていたけど、あんな威力は出せないわ」

「僕は無属性しか使えないので……」

(――エジル、どうした?)


 魔法を使うのはエジルしかいないだろう。英雄の器の能力で十倍の効果になっているんだから。


「俺の見立てだと、水弾を連射してもあの結界は破れないと思う。弱体化させることは出来るはずだから、そのタイミングで強力な一撃を入れられたらって思ったんだけどなぁ」


 エジルが言うならそうなのだろう。場数で言えばこの中の誰よりも多いはずだし。

 しかし、そうなると結界破壊とホームズさんの加勢は諦めるしかない。


「……あのー」

「んっ? どうしたんだ、ユウキ?」


 そこに声を掛けてきたのはユウキだ。何か思いついたのだろうか。


「僕、こんなもの持ってるんだけど、役にたつかな?」


 そう言って取り出したのは、衝動買いと言ってもいいソラリアさんのところで購入したセール品、魔法剣マジックソードだった。


「おぉっ! なんか面白いのを持ってるな!」

「魔力枯渇になるから一回しか使えないんだけど、全能力を乗せて無属性魔法を放てるんだ。どれくらいの威力になるかは分からないけど……」

「いやいや、これは俺の水弾よりも遥かに強力な一撃を放てるよ。それにユウキ、無属性持ってるんだよな」

「はい、ランクは四です」

「充分だ。よし、これなら結界を破壊出来そうだ。俺が水弾を連射して結界に揺らぎを与える。そのタイミングで魔法剣を放ってくれ」


 トントン拍子に指示を出すエジルにユウキは困惑顔だ。


「で、でも、どんな魔法が飛び出すか分からないんですけど」

「大丈夫。三日月型の白い刃が飛び出るから遠くからでもいけるよ。お姉さんは倒れたユウキの回収をお願いね」

「……物知りね」

「この魔法剣、俺の友人が作ったやつだからさ」

「「……えっ?」」

(――……えっ?)

「タイミングは俺が水弾を撃つ時、合図するからね。大体の場所は後方、君たちが通ってきた森の方向ね! それとこれ、マジックポーションだから飲んどいて。転がってたから」

「えっ、あっ、はい!」

「お姉さんにもお願い。俺が水弾を連射する時、無防備になるから精霊魔法で守ってほしいんだ。それも全力で」

「……りょーかいよ。もう驚かないわ、驚いていたら負けよ!」


 慌てて返答したユウキにホームズさんが置いていったポーションを投げ渡しながら笑みを浮かべ、リューネさんには苦笑を浮かべている。

 そしてエジルが銀狼刀ぎんろうとうを構えて悪魔と再び対峙した。

 しかし不思議なもので、何故悪魔は襲ってこなかったんだろう。

 僕たちが眼中にないのか、それとも単純に遊んでいるのか。


(――俺たちって、なめられてる?)

「気づいてたか。悪魔はそのほとんどが自分たちこそが上位種だと思っている。だから俺たちが何か企んでいると分かれば、それをあえて邪魔しない。それも含めて叩き潰してやろうと考える奴もいるよ」

(――でも、こいつはホームズさんを結界の外になるよう画策していたぞ)

「うーん、楽しみを後にとっておいたかもしれないな」


 いや、まさかそんな。

 ……でも、この悪魔は何か戦いを楽しんでいる節がある。本当にホームズさんだけをメインディッシュとして除外したのなら知能もありそうだ。


(――それとさ、ケルベロスを二人に相手させても良かったんじゃないか?)

「それは却下。ユウキがラストエッジを使うならなるべく魔力を減らすわけにはいかないよ。お姉さん一人に任せるわけにもいかないしね」

(――魔力の多さに比例して威力も上がるわけか)

「その通り。だから俺が相手にするわけよ」


 ニヤニヤと笑っているように見える悪魔。

 今度は何をするのかと興味津々のようだけど、この行動が命取りになるだろう。


「さて、行くぞ!」

(――頼んだぞ!)


 悪魔に気づかれないよう結界破壊の準備を行いながら、ユウキは悪魔に向けて駆け出していく。

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