装飾作り

 ユウキもそのままついて来てくれて、一緒に説明を受けることになった。


「では、あちらの木のところまで行きましょう」

「ホームズさんは木属性を持ってるんですか?」

「いえ、私は持っていませんよ」

「えっ? それじゃあ、どうやって作るんですか?」

「私が口頭で教えます。やり方は知り合いの装飾師に聞いていますから」


 それって、説明を聞いて僕が実践するってことですよね。自分からお願いしたこととはいえ、なかなかにハードルが高い気がするよ。


「この木でいいですかね」


 そう言ったホームズさんがおもむろに剣の柄を握ると――一閃。

 目の前に生えていた二メートル程の若木へ刃が吸い込まれると、抵抗がなかったかのように逆側へと抜けてしまった。


 ――ギギギギッ。


 そして、切断された若木はゆっくりと傾いていき、僕たちが立つ場所の逆側に倒れてしまった。

 ……えっと、勝手に切って大丈夫だったのかな?


「この木の中心部分を加工しましょうか」

「これ、いいんですか?」

「どこにでも生えてますからね、問題ありませんよ」

「そ、そういう問題なのかなぁ」


 ホームズさんが問題ないって言うのだから、大丈夫なのだろう……きっと。


「コープスさんは木属性でどのようなことができますか?」

「植物の成長を促進させたり後退させたり、それくらいですね」

「……そ、促進?」

「そうですね……今ホームズさんが切った木の成長を促進します」


 僕はそう言うと地面に根を生やしている木の幹に両手を添えて木属性魔法の促進を発動。

 切断面の中心から小さな芽が現れると、そのまま太く高く伸びていく。その間数十秒程しか経っていない。

 これくらいかなと思い手を離した時には、元々の高さを超えて成長した立派な大木が存在していた。


「これが促進です……って、あれ?」


 そこには、口を開けたまま固まっているホームズさん。この促進って、そんなに変なことなのだろうか。そういえばゾラさんも普通はできないって言ってたっけ。


「まあ、えぇ、もう驚きませんとも、本当に」


 なにやらブツブツと呟き始めたホームズさんは、何事もなかったかのように説明を始めてしまった。


「まずは、使用する中心部分を取り出すために、外側部分を取り除きます。これは木属性でも、他の属性でも構いません。私の場合は風属性を使用しています」

「風属性?」

「こういった感じですね」


 言いながら軽く手を振って風属性魔法を発動したホームズさんは、中心部分を残して外側部分を風の刃で切り取ってしまった。

 あまりの速さに、今度は僕とユウキがポカンとしたまま固まってしまう。


「木属性なら必要な部分を残して、外側を破棄することも可能でしょう」

「……イメージが湧きません」

「先ほどの話にあった後退。それを中心以外に発動させる感じでしょうか」


 必要ない部分の成長を後退させて枯れさせる。そんな感じでいいのだろうか。

 まあ、そのあたりは次の機会に試してみよう。今回はホームズさんが綺麗に切ってしまったからね。


「加工に関しては、その人のイメージ力が重要な作業となります。手持ちの刀身に合うものをイメージできるか、そしてイメージ通りに作れるか、ですからね」


 刀身のイメージは元から考えていたので問題はなかったが、他の部分に関しては考えていなかった。

 黄色の刀身、どこか荘厳さを感じる色味に合う形がどのようなものなのか……うーん、難しい。

 近場にあるショートソードといえば銀狼刀ぎんろうとうだけど、これは刀身から柄まで一つの素材で作られているから比較対象にはならない。

 その時、銀狼刀以外のショートソードが身近にあることに気がついた。


「あっ! ユウキ、その剣を見せてくれないかな?」

「えっ? この剣は安物の剣だけど、これでいいの?」

「いいのいいの、参考までにってことでさ」

「それならいいんだけど」


 腰のベルトから鞘ごと外してくれたユウキは、そのまま剣を手渡してくれた。

 鍔はシンプルに長方形、特に装飾などもない金属製のもの。

 柄は木製で柄頭に膨らみを持たせた仕上がり、握り手部分には窪みなどはなく、ザラザラした質感で作られている。

 鞘が一番シンプルだ。刀身に合わせて作られただけの見た目だけど、特別な剣でなければ鞘はそれでいいと僕も思っているので細かくは確認しなかった。

 そして、刀身の長さは打った刀身と同じくらいで、僕の思惑通りである。


「とりあえずお試しな訳だし、これと同じ感じで作ってみようかな」


 イメージしてる部分からは多少の変更を加えるけど、概ねユウキの剣と近い形で作ることにした。


「えっ、そんな感じでいいのかな。その刀身、高ランクで出来上がったんでしょう? ジンが思う通りに作った方がいいんじゃない?」

「大丈夫、大丈夫。この剣はユウキにあげるつもりだから」

「へぇー、そうなんだ。…………えっ?」


 相づちの後に固まるユウキ。その時間が数秒ほどあったので、そのまま作業を進めようとしたのだが、その直前に再起動を始めた。


「いや、いらないからね! 僕はそんな高価なものいらないよ! すでにファンズナイフも貰ってるんだから!」

「まあまあ、気にしないでよ」

「気になるよ! いくらになると思ってるのさ!」

「うーん……さあ?」

「ちょっと、ジン!」


 うるさくなってきたユウキに剣を返した後は、鍔、柄、鞘の作成に入った。

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