二度目の襲撃
お昼休憩が終わり、再び王都へ向かい北上を開始する。
順調に進めば三日では到着するだろうと言われているので、野営の回数は最低でも二回あるだろう。その時にナイフ以外の武器を打つ必要がある。
ヴォルドさんが使う大剣はさすがに打てないけれど、ロングソードまではなんとか打てるだろうと考えており、なるべく早めに前衛の人へ渡しておきたい。
……まあ、アシュリーさんあたりがお昼休憩の時に羨ましそうにこちらを見ていたのもあるけど。
「しかし、道中は先程の襲撃以外は順調ですね」
「本当だな。もしかして、このまま王都まで到着するんじゃないか?」
「その方がいいですよ。さっきは本当に怖かったんですから」
クリスタさん、ダリルさん、シリカさんが順に口を開いた。三人が言うことも当然で、襲撃なんてないに越したことはない。
このまま到着することが一番なのだが、馬車の中でホームズさんだけが険しい表情を崩していなかった。
「どうしたんですか?」
「んっ? いえ、なんでもないですよ」
ニコリと微笑み三人の会話に入っていくホームズさん。
この順調な道のりの中で、何か懸念事項でもあるのだろうか?
その後も道のりは順調そのものだった。
賊の襲撃もなく、馬車の外からもヴォルドさん達の談笑が微かに聞こえてくるくらいに静かな森だった。
そこまで考えて、あれ? という疑問に行き着いた。
賊の襲撃がないというのは問題ない。
談笑だって僕たちもしていることだから問題ない。
だが、森が静かなことに関してはおかしくないか? 僕は先程思っていたではないか、賊が大声で叫んでいた時に。
——何故、魔獣の気配が一切しないんだ?
森の入口では魔獣狩りが行われていたので気にはならなかったが、ここは中腹を少し過ぎたあたりである。
ここまでカマドの冒険者たちが足を伸ばしていたのだろうか? だが、ここまで来れる冒険者となれば限られてくるだろう。
この森で、また何かが起こっているのか?
そう考えていると、外からロワルさんの声が聞こえてきた。何を話しているのかまでは分からなかったが、すぐにヴォルドさんが顔を見せた。
「正面から魔獣の群れが迫っている。ちょっとおかしな数だ」
「どれくらいですか?」
「ざっと見て五〇匹以上はいるかと」
「ご、五〇匹!」
ロワルさんの報告にシリカさんが両手で口を覆い声を漏らしている。
「それに、ここいらでは見ない魔獣も混じっているみたいだな」
「倒せそうですか?」
ホームズさんがヴォルドさんを見ながら問い掛ける。
「誰に言ってんだ? 俺は
「ふっ、そうですね。任せましたよ」
「こっちの護衛は任せたからな。それじゃあ、ちょっくら行ってくる」
ヴォルドさんはホームズさんと拳を打ち合わせて無事を願い、離れていった。
今この場には僕たち五人だけが残されている。
静かな森の中で、風が木々を揺らす音だけが聞こえる。
そして数分後——
——ドゴオオオオオオォォン!
前方から大爆発。続いて魔獣のものと思われる雄叫びが響いてきた。
ヴォルドさんたちと魔獣の群れが開戦したのだろう。
最初の大爆発はメルさんの魔法攻撃だと思う。
先手必勝で数を減らし、その後に有象無象の魔獣を狩り尽くす。
それでも数は圧倒的に不利なはずで、全員が無事に帰ってくるのを祈るばかりだ。
そんな中——ホームズさんが剣の柄に手を添えて立ち上がった。
「皆さんは、中にいてください」
「ホ、ホームズさん?」
異様な雰囲気を纏ったまま、馬車の外に出ていくホームズさん。
僕が布の隙間から様子を伺っていると、ホームズさんが大声を上げた。
「私が相手をしましょう! 隠れていないで出てきたらどうですか!」
何が起こっているのか分からない僕たちは、息を呑んでその様子を見守っている。
すると、前方にある大きな木の陰から一人の賊が姿を現した。
衣服はボロボロなのだが、顔には異様なお面を被り、両手に持つナイフは明らかな業物だとひと目で分かるほど美しい輝きを放っている。
そして、午前中に襲ってきた賊とは明らかに雰囲気が違う。僕でも分かる程の寒気が、見ているだけで襲い掛かってくる。
こいつは、本物の暗殺者だ。
「
「生憎ですが、私は護衛としてこの場にいるのです。邪魔をするのは当然ではないですか?」
「一度引退した身で、俺に勝てるとでも思っているのか?」
「どうでしょうか。やってみれば分かると思いますよ」
お互いに見つめ合いながら挑発を繰り返す。
そして、最初に動いたのは暗殺者の方だった。
地面を蹴る音は全くしなかった。にもかかわらずホームズさんの間合いに入り込み、ナイフの間合いまで侵入すると頸動脈を狙って振り抜かれる。
右のナイフを剣で受けると、左のナイフは体位をずらすことで回避したホームズさんは、間髪入れずに前蹴りをみぞおちに叩き込む。
一瞬触れたものの、飛び退くタイミングと重なりダメージはなさそうだ。
暗殺者は着地と同時に使い捨てナイフを馬車めがけて投擲してきたが、ホームズさんが無属性魔法で先回りして弾き飛ばしてくれた。
「さすがですね、抜目がない」
「貴様、本当に引退した身なのか!」
余裕があるのはホームズさんのようで、暗殺者は何かを焦っているように見えた。
「やはり、まずは貴様から仕留めさせてもらう!」
語気を強めて言い放つと、暗殺者は魔法を併用して飛び掛かってきた。
森の中だというのに、直径一〇センチ程の火の玉を五つ顕現させて撃ち出すと、ホームズさんはあろうことか火の玉を斬り捨てていく。
斬られた火の玉は地面に着弾してしばらくは燃えていたが、すぐに消えてしまう。
それでも残る四つはそうはいかなかった。
馬車には当たらなかったものの、周囲の木々に燃え移ってしまい徐々に火の手が大きくなっていく。
火の玉で攻撃しながら、間断を縫って仕留める魂胆だったのだろうが、ホームズさんは火の玉や火の手を気にすることなく暗殺者と斬り結んでいる。
相手は速度重視の二刀使い。対するホームズさんは少し長めの剣、ロングソードだと思うのだが、それで全ての攻撃を弾き返していた。
明らかな実力差に、暗殺者の焦りが増幅する。
そして、その焦りをホームズさんは見逃さなかった。
「ふっ!」
「ぐうっ!?」
左の肩口から右の脇へ向けるようにロングソードの刃が滑っていく。
鮮血が飛び散り、地面を朱色に染め上げた。
大きく飛び退いた暗殺者は、仮面の奥に見える瞳でホームズさんを睨みつけると、深追いはせずに引いてしまった。
僕が唖然としていると、ホームズさんが僕に手招きをしてくるので馬車を降りて近づいていく。
「この火、消してくれませんか?」
あれだけ余裕ぶっこいていたのは、そういうことだったんですね!
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