お小遣いとは言えません

 結局、全ての鉱石を出し切ることができず、さらにお店のお金も全てを買い取るには足りないということで、リディアさんが求める量だけを売ることにした。

 残りは僕の練習用に取っておくことにする。


「元々練習用には取っておこうと思っていたんですよ」

「ヒューゴログスとアクアジェルを練習用に使う鍛冶師なんて、そうそういないと思うけどね」


 苦笑しながらもお金の準備をしてくれたのだが、その金額が大変なことになってしまった。


「……小金貨、六枚」

「本当はもっと買い取りたいんだけどね。本当にごめんね」

「いえ、その……あまりの大金に驚いているところです」

「確かに、相場よりも少し高い値段ではないですか?」


 冷静に質問を口にしてくれたソニンさんの言葉に従って、僕はリディアさんへ視線を向ける。


「仰る通りですが、これだけの素材をこの量で買い取るなら、これくらい出しても問題はないと判断しました。むしろ、安いのではないかと心配したくらいです」

「全然足ります! というか、お小遣い稼ぎのつもりでしたから!」

「……ジン様は規格外過ぎますね」

「……小金貨……金貨……」


 そして、またユウキが金貨という単語を呟いている。……君の持っているブレイヴソードは、それ以上の価値を持っているんだけどねぇ。


「あっ! それじゃあ、ここで何かお土産を買って帰ろうよ!」

「カズチ様とルル様にですね!」

「……はっ! し、師匠にも何か買いたいです!」

「ユウキ、なんで敬語なの?」

「あれ? なんでだろう」


 いきなり我に返ったからか、ユウキが少しおかしくなっている。

 まあ、そのうち本調子を取り戻すだろうと思い、僕はお店の中を見て回ることにした。


「私はリディアさんとお話しをしておきます」

「ソ、ソニン様とお話しだなんて……こ、光栄です!」


 カチコチに固まったリディアさんに苦笑しつつ、ユウキとフローラさんと共にお土産を選んでいく。


「ジン、ダリアさんにも買っていきたいんだけど、いいかな?」

「もちろんだよ! というか、いちいち僕に許可なんて必要ないよ? これはみんなのお金なんだから」

「わ、私は何もしてませんけど……」

「護衛がいたからこその採掘、そしてこのお金なの!」

「……ありがとうございます!」


 フローラさんはとても嬉しそうな表情をした後、キラキラと輝く鉱石を眺めている。

 冒険者としての姿ばかり見てきたけど、こういうところを見るとやっぱり女の子なんだと改めて思ってしまう。


「あっ! これなんてダリアさんにどうかな?」

「とっても似合うと思います!」

「へぇー、深緑の鉱石をあしらった髪留めかぁ」


 リディアさんのお店には鉱石だけではなく、鉱石をそのままあしらった装飾品も置いてある。

 錬成をしていない装飾品なので手を加えたものに比べると輝きは落ちてしまうが、値段は比較的安価で手に入れることができる。

 ユウキが選んだ髪留めも大銅貨七枚という金額なので、今の僕からするととても安い買い物だった。

 ……一般市民からすると、とても高価なものなんだけどね。


「もっと高いものでもいいよ?」

「あんまり高いものだと、ダリアさんが遠慮しそうだからさ」

「ダリアさんならそうかもしれませんね」

「……そうだね。それじゃあ、他のみんなのお土産も選んでいこう!」


 その後も三人でお店を見て回り、全員分のお土産を買うことができた。

 カズチには錬成をするための鉱石、それも全属性で一つずつ。

 ルルには赤色の鉱石が嵌め込まれたペンダント。

 ホームズさんにはユウキが選んでおり、原石なのだが大きめの青い鉱石だ。


「ユウキ、これってどうするつもりなの?」

「師匠の机が殺風景だったのを思い出してね、飾ってもらおうと思ったんだ。色も青だったら落ち着けるかもと思って」


 殺風景かぁ……そういえば、僕の部屋もだいぶ殺風景なんだよな。ユウキから貰ったオリハルコンしか飾ってないし。

 この機会に何か飾ってみようかな。


「ジン様、こちらの二つはどなたへのお土産なんですか?」

「カミラさんとノーアさんに。ホームズさんにだけってのも気が引けるし、高価なものじゃなかったらいいかなってね」


 僕が二人に選んだのも置物なのだが、こちらは加工がされている。

 カミラさんには黄色の鉱石で、ノーアさんには緑色の鉱石でそれぞれ作られた花の置物だ。


「綺麗な置物だね」

「二人にはホームズさんの負担を軽くする為に頑張ってもらっているからさ」

「素敵だと思います!」


 そして、最後に選んだお土産は――このお店で一番高い上質の鉱石だった。

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