揺らぎ
エジルが左腕を庇いながら悪魔とケルベロスを相手取っている中、僕にも出来ることがないかと考え始めた。
相手の隙を突いたり、意表を突くことに関しては役に立たないだろうから周りに目を向ける。
とはいうもののエジルの視界に入った部分しか見えないのでその中で何かを見つけるというのは難しいんだけどね。
それに、チラッと見えるユウキやリューネさんの戦いも気になって仕方がないよ。
エジルが風に乗せた水弾を放ちながら、同時に火炎放射を放ち悪魔の炎を相殺する。
ケルベロスが突進してきたところに
追撃の為前進するが、悪魔が奇声を放ちながら突っ込んできたので深追いはせずに後退、土属性で土壁を築きながら距離を取る。
ケルベロスさえ何とか出来れば勝機は見えるはずなんだけど、悪魔も巧みな位置取りでそれを許してはくれない。
ならば発想を変えてみよう。
今ある現状で考えるのではなく、どうしたら有利な状況に持っていけるのかを考える。
一番良いのは援軍が現れること。だけどそれは難しいだろう。
おそらく多くの冒険者が森の中に入ってきているはずだけど、ここに到着するまでの間にだいぶ引き離してしまった。大量の魔獣に阻まれていた場合のことも考えれば、この案は破棄である。
次の案はフローラさんが戦闘に参加してくれることだけど、これも難しい。
実力が分からない上に連携を取れるかどうかと言われるとそれも難しい。
更に現時点で出てきてくれないことを考えると到底無理な話である。
最後の案だけど、僕としては一番可能性が高いものだと思っている。
それは、結界を破壊してホームズさんを加勢させることだ。
エジルが戦闘をしている時に気になるものがあった。それは水弾が結界にぶつかった時の大きな揺らぎ。
すぐに揺らぎは消えて元に戻ったんだけど、もし連続で水弾を結界にぶつけることが出来れば、結界を破壊することも可能じゃないのか?
そうなればホームズさんが加勢に入り形勢を逆転させる一手になり得るんじゃないか?
しかし、これには一つ懸念事項もある。それは、大量の魔獣も雪崩れ込んでくる可能性だ。
ホームズさんが一人で奮戦しているはずだけど、エジルの視線が後方に向かないので今どうなっているのかが全く分からない。
悪魔とやり合えるとエジルが太鼓判を押したのだから、加勢に加わればそれ以上の援軍はないはずだ。
(――集中してるところごめん、ちょっといいかな?)
「んっ? どうしたんだ?」
(――あの結界だけど、壊せないかな?)
「結界を、壊す? 壊してどうするのさ」
(――壊したら、ホームズさんが加勢出来ると思うんだけど)
「あー、なるほどね。でも魔獣も入ってくるんじゃないの?」
(――そこはほら、ホームズさんが既に駆逐してくれていることを願うのみ)
「俺並みに考えてないな!」
僕の考えを一蹴しようとしているエジルに気づいて、僕はたたみ掛けることにした。
(――でもさ、このままじゃあジリ貧だよね?)
「……」
(――一種の賭けも必要じゃないかな)
「……」
(――僕だって、みんなを助けたいと思っているんだよ?)
「……そうだな、それが一番可能性が高そうだ。だけどどうやって結界を壊すんだ?」
(――そのことなんだけど)
ということで僕は仮定の話をエジルに伝えた。
この間も回避に重点を置いて悪魔とケルベロスと対峙しているのだから、エジルは本当に凄いと思う。
時折水弾をわざと結界に向けて飛ばしているのを見ると僕の提案に乗り気なんだと分かった。
そして水弾が接触するたびに結界は大きな揺らぎを見せている。今の僕のスキルでは風に乗せて飛ばす水弾が最大威力の攻撃だから、これを連続で当てなければいけないだろう。
(――……連続で当てるのって、無理くない?)
「あっ、気づいた? さすがの俺でもこいつら相手にしながら水弾を結界に放つのは自殺行為かなー」
そう、今の時点で剣術と魔法を駆使して凌いでいる状況である。手の内から魔法がなくなればエジル自身の身が危なくなる。……この場合は僕の身だけど。
「もっと威力の高い攻撃があれば一番良かったんだけどなあ。それと、もう一つ問題があるんだよね」
(――これ以上の問題って何?)
本当にそんな問題があるのなら絶望的じゃないか。僕はエジルの言葉を無言で待った。
「……もうすぐ制限時間です」
……マジかよ! これまでで一番の大問題じゃないか!
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