鍛冶本と素材の山

 本部に戻ってきた僕たちはそれぞれの部屋に戻っていった。

 ガーレッドはお腹いっぱいで満足したのか早い時間ながら少しウトウトしている。

 この後に鍛冶を行うのはなんだか気がひけるが仕方ない、だって鍛冶だもん。

 ガーレッドには槌を振るう音が子守唄に聞こえてくれるよう慣れてもらうしかない。


「少し休んどく?」

「ピー、キャー」


 大きな欠伸をしているガーレッドをベッドに置くと、嘴で毛布を引き寄せて器用にくるまってしまった。

 ……こ、こんなことができるようになっていたなんて。

 退院してからは僕がずっと被せていたから気づかなかったよ。

 少しだけ、ほんの少しだけ寂しい思いをしながらも僕は鍛冶本に手を伸ばす。


 日本の常識とこの世界の常識が異なることはすでに知っているが、どの程度異なっているのかまでは把握できていない。

 本を読んで埋めれる部分は埋めていければ、何か打開策が見つかるかもしれない。

 そうでなくても成功率を上げることに繋がるかもしれないしね。


「よし、読むか!」


 気合を入れて本を開く。

 何が書かれているのか楽しみだなー。


 ……えっと、あー、うん。そっか、そうだよね。

 よく考えたら、ホームズさんから借りた本は初心者用であり、僕はゾラさんに鍛冶についての指導をしてもらっているのだ。

 ということは、初心者が学ぶこと以上のことを学んでいると言える。

 結果、ほとんどのことを知っていた。


「……僕の気合を返せー!」


 堪らず大声を出してしまったので、ガーレッドが寝ながらビクリと体を震わせていた。

 それもまた可愛かったので幾分苛立ちが緩和されたのだが、それでも落胆は隠せない。

 素材調達、魔法の使い方、最後の仕上げ。日本の知識と違うところは多いが、やはり習ったことばかりだ。

 この調子なら錬成本に関しても同様かもしれない。


「……まだ時間はあるんだよなぁ」


 分かるところを飛ばしながら読み進めていたので、意外と早く読み終わってしまった。

 ガーレッドも寝ているし、さてどうしよう。


「ホームズさんから貰った素材でも見ておこうかな」


 量が多過ぎてちゃんと中身を見ていなかった素材の山。それらを練習用と本番用に選り分けておこうと考えた。

 とりあえず魔法袋マジックパックの中身の半分を出してみる。


「……やっぱり、多過ぎるよなぁ」


 何度見ても殺人的な量である。

 これだけの素材を使い切るのにどれくらいの日数が必要になるだろうか。

 それに錬成の練習で出てくる素材で鍛冶の自主練は事足りているのでこの素材たちは減ることがないのだ。

 ……時間制限がなければ今すぐにでもやりたいんだけどね。


「全く何なのか分からない素材があるんだけど、取りに行ったのって南にある鉱山だよね?」


 銅の鉱山で、奥の方にキルト鉱石があるって聞いたけど、教えられてない素材も多いんですけど!


「えっと、これがキルト鉱石だよね」


 事前にキルト鉱石に関してだけは教えられていた。

 黄色い鉱石で艶があり、上質なものであれば錬成もせずに置いておくだけでも調度品として取り扱われることもある。

 ……それくらいの質のものまであるんですけど。

 これを売るだけでも相当稼げる気がするのは僕だけだろうか。

 錬成をすることで付加価値が付いてさらに高値で取引されるんだろうけど、何だか不思議な話である。


「これも何だか分からないし、これも分からない。これは……本当に素材かな?」


 まさか、魔獣の素材も混ざってるとかないよね。

 魔素が濃いからいらないって言ったんだけど……まさかねぇ。


 ――コンコン。


 そんなことを考えていると、ドアがノックされた。


「はーい、どうぞー」


 入ってきたのはホームズさんだった。

 あれ? もうそんな時間だっけ。


「こんにちは、コープスさん」

「こんにちは。時間、まだありますよね?」

「そうですが、渡した素材が気になりましてね。ユウキと一緒に行った鉱山とは別に、私個人で別の場所にも取りに行ったものですから」


 あー、やっぱり?

 明らかに輝きが違う素材が混ざってると思ったんだよねー。

 たぶん、ここら辺じゃ取れない素材だよね? 相当遠くまで行ったんじゃないのかな。


「ならちょうどよかった。ホームズさん、これって何ですか?」

「あぁ、珍しい魔獣の甲殻が手に入ったのでついでにと」

「やっぱり! 魔獣の素材は魔素が多いからいらないんですよー!」

「そうなのですか? ですが、魔獣の素材を錬成できてこそ一流なのですよ?」


 ……む、そう言われると負けたくないような、何というか。


「それに、全国で知られている名剣や名槍の類は全て魔獣の素材から作られているとか」

「ありがとうございます! 僕も魔獣の素材を扱えるように頑張ります!」


 唯一無二の武具を作るには魔獣の素材を錬成できなければ一生たどり着けないだろう。ならば挑むのみである!


「そう言うと思いましたよ。さて、そろそろ二の鐘が鳴りますから準備を始めましょうか」

「はーい!」


 ガーレッドはグッスリ寝ているのでベッドに残し、僕とホームズさんは鍛冶部屋へ向かった。

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