満身創痍
あー、死んだ。
そんな不意打ちはダメだって。
まさか蛇から炎が吐き出されるとは思わなかったよ。
まさか転生して四日目で死ぬとか、神様も予想外だったろうに。
「ピキュー?」
ガーレッドだけは助けてあげたかったけど、この炎じゃどうしようも……んっ?
「ぴ、ぴきゅー?」
「ピッピキャー!」
……あれ、生きてる?
でも、周りは黒炎が覆ってるしこれで生きてるとかありえないんだけど。
「--ジン! 大丈夫か!」
うん、本当に生きてるみたいだ。ユウキの声も聞こえるし。
しかし何故生きてるのだろうか。明らかに直撃だったし普通なら姿形が残らないほどの火力だろうに。
そう思っていると目の前の空間に風が吹いていることに気づいた。
「……あー、これのおかげか」
俺は視線を右手に握る
ゾラさんが銀狼刀を作った時に付与した属性は二つ--火属性と風属性。
その風属性が防御補正の風のヴェールである。
風のヴェールが黒炎を遮りギリギリ助かったのだろう。
「……熱傷といい、風のヴェールといい、効果が尋常じゃないな!」
まあ、今回は助かったからいいんだけどね。
それにしてもこれからどうしようか。ユウキが叫んでいたから返事をしてあげたいけど、ケルベロスも俺が死んだと思っているようでどんどん離れてユウキを狙っているようだ。
銀狼刀のバカみたいな斬れ味と火属性の効果を目にしたからにはこの隙をついて多少なりダメージを与えておきたい。
「何もせずに出て行っても、先にバテるのは俺だろうからな」
生きている、生きているが呼吸は乱れ肩が上下に揺れている。
先程と同じ状況が続けばいずれ黒炎ではなく牙にやられて殺されるだろう。
蛇の視線がこちらから逸れた瞬間が勝負だ。
揺れる黒炎の隙間からケルベロスを、その尻尾である蛇を見据える。
--まだだ。
--まだ我慢。
--もう少し。
--いまだ!
蛇がこちらから視線を逸らして前方を向いた直後、無属性魔法でケルベロスの右の後ろ脚めがけて駆け出した。
瞬間移動と見紛う速度で肉薄した俺は通り過ぎながら銀狼刀を振り抜く。
『ギャアアオオオオオオオオッ!』
突然の激痛にケルベロスの三首全てから悲鳴が上がる。
蛇は死んだと思った俺が現れたことで困惑していたようだがすぐに嚙み殺そうと動き出した。
だが俺は勢いを殺すことなく一気に射程外へ逃れてから振り向く。
「ユウキ、生きてるか!」
……返事がない。まさか、そんな!
「--生きてるよ!」
「どぅわあ!」
ユウキは俺の横に立つ木の上から飛び降りてきた。
普段と変わらない声音だったが、その体は服が所々に焦げ付き、露出された肌には火傷が目立ち、切り傷もある。
「……あっ、ご、ごめん、怪我が!」
「ジンが無事ならいいんだよ。それに、ケルベロスにダメージを与えるために隠れていたんだろ? ジンの考えが正解だからさ」
「えっ?」
「僕もそろそろ限界なんだ。だから、ジンのあの一撃は逃げやすくなるから助かるよ」
笑いながらそう言ってくれるユウキに感動して泣きそうになるがそこは我慢だ。まだ助かると決まったわけじゃないからな。
そう考えながら視線をケルベロスに向けると、三首の眼がただでさえ紅いのに怒りでさらに真紅へと染まり、青眼だった蛇の眼にも所々に紅い筋が浮かび上がっている。
そして--。
『『『オオオオォォォォォォン!』』』
『キシャアアアアァァッ!』
全ての口から遠吠えが上がると、無差別攻撃が開始された。
「嘘だろ!」
「まずい、後退しよう!」
全ての口から最大火力のブレスが吐き出されてケルベロスの周辺が一面炎の海と化す。
離れたところにいたのだがブレスの射程内だったようで慌てて後退しながら回避していく。
「……なあ、このままじゃあ森がなくなるんじゃないの?」
「……ありえるかも。森がなくなると魔獣の生態が崩れるから近くのカマドにも被害が出るかもしれない」
それは困る。何せ鍛冶が出来なくなるではないか。
せっかくここまで生き残ってるのに、銅のナイフ一本作ったくらいで満足できるわけがない。
カマドは俺が生産生活を送るために必要な場所なのだ、面倒臭いけどやれることはやるべきだろう。
「まずは、この火を消さなきゃだな」
「いやいや、消すってどうやって消すのさ?」
ふっふっふー!
普通の人には思いつかないだろうけど、俺にはあのスキルがあるから少し大げさなことでも出来ちゃうんだよね!
というわけで、俺は上空を指差して水属性魔法を発動、大量の水を生成しながらケルベロスの真上に浮遊させることに成功した。
「……水が、浮いてる?」
口をあんぐりと開けて驚いているユウキだが、あれは単に風属性魔法を併用して発動しており水を風の力で持ち上げているだけだ。
あれ? 普通はこんな使い方しないのか?
……まあそんな話は置いておこう。十分に水が溜まったので風属性を解除、溜まった水がケルベロスの頭上から一気に落下した。
「えーっと、名前は……み、水爆弾で!」
ヤバい、全く考えてなかったよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます