模擬戦・ジンVSイスコ
……はぁ。
もっと訓練場をぶっ壊してくれてもよかったのに。
リューネさんとユージリオさんはお互いに健闘を称え合っているのだが、何故だか植物は消えてしまい、割れた地面も元通り。
そのままでよかったのだが、リューネさんがこちらを横目で見ていることに気づき、精霊魔法で直したのだと理解する。
「余計なことを」
「何か言いましたか、ジン殿?」
「どわあっ!?」
先ほどまで審判をしていたポーラ団長が後ろから声を掛けてきたので、僕は驚いて声をあげてしまう。
首をコテンと横に倒している姿は愛らしいのだが、気配を消して忍び寄るのは止めて欲しい。
「次はジン殿の模擬戦ですよ! 素晴らしい戦いを期待しております!」
「そこまで期待されるような試合はできませんよ?」
「何を仰いますか! あぁぁ、私もあの場にいたかったです! そしたら、すぐにでも模擬戦を申し込めたのに!」
「いやいや、あの場で模擬戦とかあり得ませんからね!」
きっと冗談だろう。……うん、満面の笑みを浮かべているが、冗談のはずだ。
そんなことを考えていると、一人の若い男性騎士がこちらにやって来て声を掛けてきた。
「よ、よろしくお願いいたします!」
「えっと、僕の最初の相手ってことでいいんですか?」
「はい! イスコ・フレンツェと申します!」
赤い髪の少年が緊張した様子で自己紹介をしてくれた。
……だが、明らかに若い。僕よりも二つか三つくらい上だろうか。彼よりもベテランの騎士はもっといるだろうに。
「あみだくじで彼が模擬戦の権利を勝ち取りました」
「あみだくじだったんですか!?」
「はい、ジン様。あまりにも希望者が多過ぎたので、一発で決まる方法を選びました」
イスコさん、運が良いのか悪いのか。
(エ、エジル?)
(――なんだ、ジン?)
(少しだけ手加減してあげてね?)
年下の僕に――実際はエジルに――圧倒的に負けたとなれば、将来のイスコさんが心配になってしまう。
それはギャレオさんも同じなのだが、イスコさんに関しては若すぎる。……まあ、僕が言うことではないけど。
(――うーん……まあ、了解だ)
まあってなんだよ、まあって。
とにかく、エジルから返事を貰ったわけだし僕は握手を交わしてから訓練場の中央へ向かう。
イスコさんの武器は
見た目は大柄ではなく、平均的な体型。
以外と言っては失礼かもしれないが、てっきり剣やナイフなどの扱いやすい武器だと思っていた。
「……いや、無属性を使えば問題はないのか」
筋力を強化してしまえば振り回す事は問題ない。
だが、それは訓練の時から常に無属性を発動しなければならないということにもつながってしまう。
それだけ魔力が多いのか、それとも細マッチョで斧槍を振り回せる筋力を持っているのか。
(――戦ってみたら分かるだろう?)
「そりゃそうだけど……まあ、いっか。エジル、頼むぞ」
(――はいよ)
近くに誰もいないので今回は普通に返事をする。
だが、審判を変わったオレリアさんがこちらを見ていることに気づき、僕は愛想笑いを浮かべた。
(き、聞こえてたと思うか?)
(――どっちでもいいんじゃないか? それじゃあ、体の方だけ借りるぞ)
(よろしく)
僕が許可を出すと、先ほどまで自由に動いていた体が動かせなくなる。
体の動きをエジルに譲渡して、意識だけは僕のままになった。
「それでは――始め!」
イスコさんが斧槍を振り上げながら突っ込んでくる。
当然ながら無属性魔法を発動しているので、その速度はとても速い。
だが、エジルは動く気配を見せず、視界に映るイスコさんが大きくなっていく。そして――
「はあっ!」
――キンッ!
見た目にも分かる渾身の一撃が脳天めがけて振り下ろされたのだが、いつの間に抜いたのか銀狼刀を振り上げて払いのけている。しかも、右腕一本で。
「うおぉっ!?」
(――さあ、もっと打ち込んでこい!)
言葉は僕の意識下にあるのでエジルの発言は頭の中でしか響いていないが、イスコさんはまるで聞こえたかのような苛烈な攻めを見せてくる。
それでも、エジルは右手一本で全てを受け止め、弾き、受け流してしまう。
周囲からはどよめきが聞こえてくるが、僕としては止めてもらいたい。
だって僕は、鍛冶師なんだもんなぁ。
(――そろそろ決めるぜ!)
そんなことを考えていると、エジルから気合いの入った声が聞こえてきた。
言葉通り、エジルは受けから一転して攻めに転じ、視界が一気にブレてしまう。
そして――気づいた時にはイスコさんの懐に潜り込み、喉に剣先を突き付けていた。
「……ま、参り、ました」
「勝者――ジン・コープス!」
エジルが剣を引くと、イスコさんは驚きと共に尊敬の眼差しをこちらに向けていた。
……それ、僕じゃないんだけどね。
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