まさかの展開

 部屋の中にホームズさんと二人だけとなり、僕は盛大に机の上に突っ伏してしまった。


「つ、疲れた〜」

「お疲れ様です。紅茶でも飲みますか?」

「ありがとうございます〜」


 苦笑しながらもホームズさんは水を火属性で温めてからグラスに注ぎ茶葉をパラパラと入れてくれる。

 色が付いてきて部屋の中にフルーティな香りが漂い始めると、紅茶が渦を巻き始めて沈んでいた茶葉が飛び出して備え付けのゴミ箱に入ってしまった。


「……えっ?」

「あぁ、今のは風属性で茶葉を取り出したんですよ」


 魔法の無駄遣いじゃないですかね!

 まあ、美味しい紅茶が飲めるならいいのか、な?


「それにしても驚きましたよ」

「あー、僕も驚きました。まさかゾラさんの鍛冶部屋でやった時と同じ結果がここで出るとは思ってなかったので」

「最後の鍛冶には何か手応えはあったのですか?」


 ズズズと紅茶をすすりながら、僕は鍛冶をした時の感覚についてホームズさんに伝えた。


「絶対に負けられないと思ったのと、普段のナイフよりも凝ったデザインを思い浮かべました。そしたら自然と肩の力が抜けて、イメージもすぐに固まったんです」

「思いの力なのか、デザインをより凝ったものにしたからなのか、それともその両方なのか。どちらにしろ、今回の鍛冶勝負では思わぬ手掛かりを得ることができましたね」

「はい。ユウキの案も効果はありましたから突発的に良いものを作らないといけない場面があったら試せそうですね」


 今回の鍛冶勝負はホームズさんが言うように収穫が多くてとても有意義だった。

 鍛冶も楽しかったし、最終的にはジュラ先輩とも仲良くなれそうだし、万々歳ではないだろうか。


「そういえば僕が最後に作ったナイフってどうなるんですか?」


 クランの素材で作ったものであり、なおかつ鍛冶勝負で作ったナイフである。クラン所有になり売買されるならそれでも構わないが、やはり最高の出来になったので気になってしまった。


「そうでしたね。このナイフはお返ししますね」

「えっ! いいんですか?」

「これだけのナイフを私の一存で販売することはできませんよ。やるとしたら役所を通してになるでしょうから」

「あー、やっぱりそうなるんですね」


 ゾラさんやソニンさんが打ち上げた武具は役所のリューネさんを通して販売することになっている。それと同等のランクということであればおいそれと店頭に出すことはできないよね。


「そ、それじゃあ、お言葉に甘えて――あっ!」

「どうしました?」

「いや、えーっと、ホームズさんが良ければなんですけど……」


 僕は今できる最高のお返しを思いついた。このナイフにそれだけの価値がないのは分かっているが、それでも少しは足しになるだろう。


魔法鞄マジックパックのお返しに、ホームズさんが貰ってくれませんか?」


 目をぱちくりしているホームズさん。おぉ、こんな表情もするんですね。


「いや、さすがにそれは。ゾラ様の私室で聞きましたが、ユウキにあげたナイフは小金貨相当のナイフでしたよね。そんな高価なものを私が貰うわけにはいきませんよ」

「魔法鞄はもっと高価ですよね?」

「いやまあ、そうですが」

「僕が持っていても使い道がありませんし、ホームズさんが持っていた方がいいと思うんです。それにユウキがナイフ術を学びたいって言ってたんですよ」

「ユウキが?」


 そこで昨日の鉱山でのやり取りについてを説明した。


「護身用のナイフが超一流の武器ですから使いたくなるのも分かりますね。戦術の幅を広げる為にもいいかもしれません」

「その時にでもこのナイフを役立ててくださいよ」

「……訓練の為だけに使う代物ではないんですが」

「それでも同じランクの武器は必要ですよね? ランクの低い武器で打ち合っていたらすぐに刃こぼれしてしまうんじゃないですか?」


 僕が死ぬ前にやっていたゲームでは常に刃こぼれが付き物だった。その度にプレイヤーは武器を持ちこんで来て僕が研ぎをしたものだ。

 どれだけ強力な武器であっても魔獣が強ければ必ずと言っていい程に刃こぼれしてしまうだろう。魔獣なら仕方ない部分もあるが、それが人同士の打ち合いであればなるべく回避する為に同様の武器を用意すればいいのだ。


「ユウキの為にと思って、受け取ってくれませんか?」

「……分かりました。それではありがたくいただきますね」


 抜き身のナイフを引き出しから取り出した布で包み、机の上に置く。


「鞘は後ほど作ろうと思います」

「僕も自分で作れるようになればいいんですけどね」

「素材にもよりますが、木属性があれば木製の鞘ならすぐに作れますよ」

「そうなんですか! それなら――」


 僕がホームズさんに鞘の作り方について教えを乞おうとしたその時、部屋のドアが激しくノックされた。

 何事かと顔を見合わせた後、立ち上がったホームズさんがドアを開ける。


「ホームズ様~! コープス様もいらっしゃったんですね~!」


 ドアの外にいたのはカミラさんだ。よほど急いで来たのだろう、息を切らして肩も上下に動いている。


「どうしたのですか?」

「大変です~! ゾラ様とソニン様が――王都で捕らえられてしまいました~!」


 …………えっ、何がどうなってそうなったの?

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