コフィナにて

 向かった先は以前にも訪れたコフィナだった。

 他にお店はないのかとも思ったが、コフィナの料理が美味しいのも確かなので文句は言えない。むしろ自分が知らなさすぎなのだ。

 偶然にも前回と同じ顔ぶれで、さらに受付した店員さんも同じ人だった。


「……霊獣ちゃん、可愛いですね〜」


 なんて呟きながら席まで案内してくれた。


 ルルとリューネさんはメニューを見ながらあれこれ悩んでいたが、僕とカズチはご飯系のメニューを早々と注文。ガーレッドにはカットフルーツ盛り合わせがあったのでそれを注文した。


「何度来ても迷うわよねー」

「そうですよねー」


 ……女性の会話はよく分からない。

 数分後、女性陣の注文も終わり店員さんが下がって行く。


「役所の仕事って大変なんですか?」


 唐突にルルが質問を口にする。


「大変よ〜。色んな人を相手にあーだこーだ対応しなきゃいけないし、資料を作らなきゃいけないし、現場まで行って確かめることだってあるしね。何々、ルルちゃんも役所に勤めたいの? 人員はいつでも募集してるわよ?」

「ち、違いますよ〜!」

「あはは! 冗談よ、じょーだん! まあ人員を募集してるのは本当だけどね」


 深い溜息交じりに呟いた言葉には重みがある。

 どうやら相当忙しいようだ。


「そんなに人が足りないんですか?」

「元々はそんなことなかったのよ。だけど、ケルベロス事件があってから不安になる子が増えてね。その後にあれでしょ? 詳細は伏せられているけど、人の口に戸は立てられないからね。不安に駆られてカマドから離れる子が増えたのよ」

「そんなことになってたんですね。でも、ここを離れてどこに行くんですか?」


 北に王都があることは知っているけど、それ以外は知らないんだよね。

 周囲を森に囲まれてもいるし、別のところに行こうにも危険じゃないのかな。


「南には海が広がっていて港町プートピア、東には大都市グランデリアと小さな都市がいくつかあって、西には小さな都市だけが点在しているわね。北には王都を過ぎるといくつかあるけど、距離もあるし北の森を抜けてまで行くことはないかな」


 そうなると、大都市がある東に行く人が多いのかもね。


「カマドは大都市に入るのかな?」

「グランデリアほどではないけど、大都市に入るわね」

「へぇー。まあ僕はカマドから出るつもりはないし関係ないかな」

「あら、冒険したくないの?」

「鍛冶をしたいです」

「まーたそんなこと言っちゃって、つまんないわね」


 そこまで話すと注文していた料理が運ばれてきた。

 持ってきてくれた店員さんは別の店員さんで、テーブルに並べ終わった後はガーレッドに視線を向けて相好を崩しながら戻っていった。

 やはり可愛いは正義なのである。


 食事は女性陣がキャッキャ言いながら、男性陣は無言で食べ進め、僕は時折ガーレッドにフルーツを食べさせてあげる。


「ピキャキャ〜」

「美味しいねー」


 通りかかった店員さんが小刻みに震えているのが横目に見えたがとりあえず無視である。

 だって、僕もガーレッドがもぐもぐしている姿を見ていたいのだ。


「こんな美味しいカフェがあるのにカマドを離れるなんて、もったいない」

「だけど、王都にはもっと美味しいカフェや食べ物があるわよ」

「リューネさん、食べたことあるんですか!」

「ふっふっふーっ、これでも国から依頼を受けて『神の槌』専門の職員やってるのよー、それくらい食べたことあるわよ」

「いいなー、食べてみたいなー」


 女性の会話に混ざることはできないよ。

 カズチもいつの間にやら食べ終わってガーレッドを見て楽しんでいるし、不思議なグループだな。


「ところでジン君」

「なんですか?」

「鍛冶の方は順調なの?」

「いきなりですね。……少し行き詰ってます」

「あら、なんか珍しいわね」

「どういう意味ですか?」

「ジン君なら何でもパパーってやっちゃいそうだからね」


 英雄の器っていう破格のオリジナルスキルを持っていても失敗はするのだ。完全に持て余してる感は否めないけど。


「今では失敗作が棚に並んでますよ」

「鍛冶部屋も作ってもらえたんだっけ、凄いね!」

「……何ですか、気持ち悪い」

「酷い! 純粋な気持ちから褒めてあげてるのに!」


 ……絶対に裏がある。

 というか、何を企んでいるかは一目瞭然だ。まだ諦めてなかったんだね、この人は。


「……失敗作もあげませんよ?」

「えー、何でよ!」

「やっぱりですか! あげるくらいなら僕が使いますし、リューネさんになら割安で売ってもいいですよ」

「だーかーらー! それじゃあお小遣いにならないじゃないのよ!」


 子供みたいなことを言い始めたリューネに嘆息しつつ、僕も料理を平らげた。


「……これも、商売ってことか」


 不意にカズチが呟いた。

 サラおばちゃんへの納品と僕たちの交渉を見て思うところがあったのだろう。


「何々、どうしたの?」


 興味深そうに聞いてきたので、僕はリューネさんに個人契約についての話を始めた。

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