依頼品の作成

 翌日は朝から仕事である。

 ゾラさんからの指示で、今回はユージリオさんからの依頼なんだとか。

 どうやら以前にライオネル家の次男に納品した剣を見て、僕ならもっとシンプルで且つじっくり眺めることのできる作品を打てるだろうと思ったそうで、だからこそ僕に仕事が回ってきたのだ。

 ……っていうか、どうして僕が打った作品だって分かったんだろうか。納品は『神の槌』として行ったはずなんだけど。


「……まあ、ユージリオさんの情報網が今も活動していると思えば理解できるけど」


 ユウキのことを調べる為に個人的な暗部だろうか、それを持っているらしいユージリオさん。ということは、カマドにその手の者が潜んでいると考えるのが妥当なのだろう。


「もしかして、僕も監視対象に入っていたりして……ま、まさかねー」


 さすがに自意識過剰だよね。……うん、きっとそうだよね。

 そんなことを考えながらも、依頼内容に沿う剣を打たなけれなならないと頭の中で構想を練っていく。

 シンプル且つ見た目が美しいというのはなかなかに難しい。捉え方によっては対照的な条件なのだから。


「片刃の剣は……ダメだろうなぁ」


 この世界では奇をてらい過ぎているかもしれない。

 以前の依頼者は物珍しい剣をと希望があったので問題はなかったが、今回はあくまでもシンプルな剣なのだ。

 ならば諸刃で打つのが当然であり、それでいて目立たない色の素材を使うべきだろう。

 前回のようなキルト鉱石では派手過ぎてシンプルとは程遠くなってしまうからね。


「そうなると、ゾラさんから提供された素材で使えるものは……これかな」


 銀色でシンプルな色合いをしている鉱石、名前はアダムナイトだったか。

 加工するには熱がすぐに逃げてしまうので難しいとされているが、強度が高くとても薄く仕上げることができるのでシンプルに美しさを出すならばこれしかない。

 あとはどういった形で打ち上げるかなんだけど。


「……せっかくだし、装飾品として炎晶石を嵌めてみようかな」


 王様を国家騎士派から守った時に大量に貰った炎晶石。

 元はガーレッドに食べさせる為に貰ったものなのだが、ユージリオさんの剣を打つ為なら使っても問題はないだろう。……手持ちの素材はあまり使うなって言われてるけど、お礼ってことにしたら問題はないかな。


「刀身はシンプルに直剣でいこう。なるべく薄く打って横から見ても美しさを保てるようにしなきゃな。炎晶石は鍔の中央に嵌めてワンポイントにしたらどうだろう」


 ぶつぶつと独り言を言っている僕の横ではガーレッドがジーっとこちらを見つめている。

 僕が仕事をしているのだと理解しており、こうして考えている時には邪魔をしないようにしてくれるのだ。


「……よし、構想は固まったぞ。そうなると、鍛冶も大切だけど炎晶石の錬成もやらなきゃいけないな」

「ピキャ?」

「うん、こっちの部屋に行くよ」


 鍛冶部屋とは逆側に作られた錬成部屋。

 ソニンさんからも仕事を振られることが増えてきたので両方を行き来することも多くなっている。

 あとは魔導スキルを完璧に使いこなせるようになれれば大抵の生産スキルは物にできてると言っていい……って、魔導スキル!


「あぁっ!」

「ピギャン!」

「ご、ごめん、ガーレッド」

「ビギャギャー」


 驚いてベッドに転がってしまったガーレッドに謝りながらも、僕は炎晶石の錬成について考え始めていた。

 せっかく鉱石の中では最上位に位置する晶石を使って錬成するのだから、魔導陣を使って火属性の付与も施したいと考えてしまったのだ。

 ただし、僕は一人で魔導陣を描いたことがないし習ったのもユウキの家で行った勉強会でのみ。

 ユウキにお願いして個人的に教えてもらう手もあるけど、それでも初歩的なものしか習えないかもしれない。炎晶石を使うなら、上位の魔導陣を描きたいと思うのは当然ではないだろうか。


「そうなると、お願いするのはソニンさんになるのか……な、なんだか怖いなぁ」


 そもそも手持ちの素材を使わないことになっているのに、炎晶石に上位の魔導陣で付与した剣を納品したい、なんて言ったら雷が落ちること必至である。


「……でも、よくよく考えたら問題だよな。相談も兼ねてお願いするのが一番か」


 別の誰かに習い上手くいったとして、これでは納品できないとなっては元も子もない。お礼だからと勝手にやっちゃあマズイよな。


「なんか、考え方が短絡的になってきたな。僕って昔はこうだったのかなぁ」


 社会人として生きていた頃ならこのような考え方にはならなかっただろう。言われた通りの条件の中から最善を選んでなんとか仕上げることしか考えなかったはずだ。

 心がこの世界の年齢に引っ張られている感覚はある。もしくはスキルと素材があるからこそ上を目指したくなるのだろうか。


「……よ、よし、ソニンさんに相談しよう。ユージリオさんへの納品なんだから自分が納得した作品を打ちたいって正直に伝えれば大丈夫なはずだ!」


 僕を意を決して立ち上がるとガーレッドと抱き上げて部屋を出た。……だ、大丈夫だよな?

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