第97話 学校アートプロジェクトの輝き
「地元の中学校の美術教師から、授業で生徒と一緒に制作してくれと誘いが来ているんだけど、どうしようかぁな。」
「少し前に流行った、学校アートプロジェクトだね。ダイラさんに相談した方がいいと思うよ。ムサビ出身者の美術教師が結構やっているみたいだから、知り合いとかいるんじゃないかなぁ。」
「ダイラさん、学校アートプロジェクトみたいな誘いが来ているんですが、お知り合いとかで、そういった活動をされている方はいますか?」
「ムサビ出身で、学校アートプロジェクトを大々的にやった人のことは聞いたことあるよ。」
「中学生とアートするのは楽しそうですが、どうなんでしょうか。」
「彼は、義務教育の中で行われている美術教育に風穴を開けたかったみたいだよ。地元の老舗美術館から、アート作品を借りてきて鑑賞したり、現代アーティストと生徒がコラボして作品を制作したりと、当時では全国的に観ても類がないくらい、派手にやったいたらしい。」
「硬直した学校教育の中に、現代アーティストが紛れ込むこと自体、危険な臭いしかしないんですけど。」
「それが、彼の狙いだったみたい。化学反応的なことを期待して、若手から玄人まで様々なアーティストを学校に入れた。子どもたちは、主体的にアートに関わるようになったようだよ。」
「そんなやり方で授業は成立するのですか?」
「選択美術という時間が昔はあったみたい。その時間帯ならある程度の自由度があった。生徒たちが学芸員のようになり、夏休みに大規模なアート祭を行う。学校全体を美術館にしたて、地域の人たちを招いて、アートを紹介するんだ。」
「学校を美術館に!本当に、そんなことができたんですか?小説や映画みたいな話ですね。」
「生徒の作品のみならず、地域の日曜画家さんや、現代アーティストの作品もごちゃ混ぜで展示していたことが凄い。革新的だよね。アンデパンダン展みたいだろ。」
「実は、皆アートが好きだった。そこを刺激した感じがありますね。」
「彼のもつ人間力や人脈、特殊性もあるけど、一つのムーブメントとして、乗っかる人たちも多かったんじゃないかなぁ。」
「その活動は、学校の同僚や周囲の美術教師たちには受け入れられたのでしょうか。」
「それは、難しいよね。前年度踏襲型の性格をもつ教育現場では、異常事態だから。現代アーティストが学校に出入りしたり、生徒たちが非日常的なアートを創作し過ぎたりしたことで、かなりの反発もあったみたい。プロジェクトは10年くらい続いたようだけど。」
「一人の才能のある美術教師の特殊な活動で終わってしまうのですね。」
「それもいいんじゃないかな。美術教師って独特な雰囲気があるだろ。時々、スーパー独特な人物が現れて、教育界を揺るがす瞬間があったって。それが続くか否かはまた別の話だから。」
「で、その先生は今どうされているんですか?」
「道半ばにして、お亡くなりになられたよう。でも、彼の功績を残そうと、教え子や、一緒に活動したアーティストたちが本をつくった。当時の思い出や、彼の考えていたことを伝えたりする活動をしているみたい。」
「そんな特殊な時間を共有した人たちの心には、アートの種がばら撒かれたことでしょうね。」
「君も、中学校で生徒と一緒に制作してきたらどう?お互いの人生にヒラメキが生まれるかもよ。学校美術館じゃなくて、美術館を学校にするとか?」
「やっぱり、アートのよさは、あまり深く考えないで、今をときめかせることですよね。よし、チャレンジしてみようかなぁ。」
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