第219話 『もう一人の自分』が叫ぶ
「自分にはできないので無理です・・。って言って新しい仕事をやる前から諦めちゃうんですよ。しぇんぱ~いまた一人後輩がいなくなりました。」
「優秀な人ほど見極めが早いからね。損得勘定や困難が予想されることを避ける傾向は誰にしもあるよ。クワヤマダくん落ち込まないで。」
「あいつらはやる前から、できるか否かがなぜ分かるんですかね。」
「失敗経験が少ないから、ダメだったときのメンタル保障に自信がないんじゃないかなぁ。ある意味不幸な時代に生まれ育ったとも言えるよ。」
「少子化に伴い、大人に過保護にお膳立てされて育てられた傾向があるのでしょうか。」
「そればかりではないと思うけど、できるか否かなんて、思い込みの要素がかなり強いからね。」
「思い込みと言えば、僕が考えるに人間の最大の思い込みは『時間』は経過するものと考えていることだと思います。」
「急にテーマが拡大したけど大丈夫?」
「生物や植物は時間と共に朽ちていきます。地球も回っています。それは紛れもなく時間の経過を証明するには充分な証拠だと思うのです。しかし、僕たちの記憶の中にある物事には、新しいも古いもない気がするのです。突如、数十年前の記憶が色鮮やかに蘇ったり、懐かしい出来事がつい昨日のような感覚になったりしませんか?」
「あるある。脳の中には時間の概念がない気がするよ。時間は人間が生きていくうえで決めた一つのルールであって、真実ではない気がする。」
「あっという間の人生だったとヒトが口にする決め台詞は、そもそも時間を感じていない脳のある領域が違和感を感じ続けていることから生み出されたものだと思うのです。」
「1年も100年も、脳の中では時間の蓄積は意識されていない可能性があるね。」
「100年生きても、100年生きた実感はもてないということかなぁ。」
「時間の概念がない人に、天才科学者やアーティストが多い気がするよ。」
「人間最大の思い込みから解き放たれている存在ということでしょうか。」
「サバン症候群の人たちは、爆発的な記憶力や計算力などの特殊な才能がある。多くの人々が信じているある思い込みから解放されているからこそ、その能力が発揮されているとも言われているけど、謎は解明されていないみたい。」
「ダイラさんも映画やSFものの記憶力が異次元ですよね。」
「大体、時計を見なかったら、10秒すらソラで当てることはできない。時間の中で生きている割には、時間不適応を起こしている自分に笑えるよ。しかも時間内にテストの問題を早く解き合うなんてナンセンス極まりないよね。人間が本当に解かないといけない問題は、時間抜きに考えないと解けないんじゃないかなぁ。」
「時間を意識している自分と、時間を感じていない『もう一人の自分』のせめぎ合いから、何かとてつもないモノが生み出されるかもしれませんね。脳の中のイメージは年々鮮明になっていくんですよ。腐ったりカビが生えたり朽ちたりしません。」
「時間を忘れて何かに没頭している人がいたら、世紀の大発見をしている最中かもしれないからそっと見守ることが大切だわ。色も形も質量もない、人間が勝手に決めた時間という概念に人間は縛られ振り回され過ぎかもしれない。オレ、今生まれたんです!って自己紹介しても誰も不思議がらない、新しい時間の概念をもった時代がくるかもね。」
「僕、寝坊して遅刻した理由をもう一人の自分の仕業なんですと言ってみましたが、時間の思い込みに支配されている連中から白い目で見られました。」
「くくく・・。だろうね。人間が発明した最大の概念・時間が、オレ(人間)の進化を阻害しているんだ!と叫んでみたら?」
「やばい雰囲気に耐えてみます。」
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