第147話 ポンコツ美術大学③走れスボイ

 スボイ学長の宝箱から見つかった芸術日記の解読がAIによって行われた。〇羽美術大学の歴史を紐解くある出来事が、AIの義理と人情、気合と根性、忍耐への憧れをくすぐる過去の遺産として一般公開された。

 

「三世さん、スボイ学長の芸術日記を読みました?」


「あぁ読んだよ。AIの連中が好きそうな友情話だったけど、本当なのかなぁ。」


「〇羽美術大学の初代学長はかなりの暴君だった。現代美術家が大嫌いで、端から殲滅させていたようですね。初代学長は彫刻科出身だったけど、彫刻科にも憎悪を抱いていて、彫刻家を名乗る連中にも制裁を加えていたようです。」


「先祖のダイラさんは、彫刻家から特殊照明作家に転身したと、芸術日記に記載されていたようだけど、その影響もあるのかなぁ。」


「時期的にはズレがあるようなので、初代学長の時には、たまたま特殊照明作家になっていたため、命が助かったのかもしれません。強運の持ち主です。」


「その暴君に挑んだのがスボイ学長なんだよね。〇羽美術大学に乗り込み、現代美術を愛せないお前を殺しに来たと凄んだらしい。スボイ学長は時々無鉄砲な正義感が出ちゃう癖があった。初代学長の顔は蒼白く、真ん中分けをしたサラサラヘアーを靡かせ、ニヤニヤクネクネしている最中、美大の奴隷たちにスボイを捕えさせ磔にした。」


「スボイは初代学長に向かって、オレを殺す前に、日展を観に行かせてくれと熱望した。その間、教務補助のカワグチを代わりにはりつけてくれと頼んだ。そして、24時間の間に帰ってこなかったらカワグチを殺してくれと言った。」


「カワグチはキョトンとした表情で、磔はと、スボイに変わって磔けられた。初代学長は、スボイが最後に観たいと言った日展が、コンセプチャルでなかったのことが、功を奏したようだ。初代学長はコンセプチャル詐欺で財産を失った過去があるらしい。スボイに共感を示し解き放った。」


「磔にされたカワグチは予想以上に重く、十字架は傾き、それを支える美大の奴隷たちは、疲弊した。初代学長はスボイは逃げたと見積もった。」


「スボイは全力で逃げた。あんな恐ろしい〇羽美術大学へは二度と戻らないと誓った。カワグチには悪いが、お前とはそれ程深い友情は無いと、すっかり気持ちを切り替えていた。」


「日展なんかウソだった。これまでもこれからも観に行く予定は無い。逃げる言い訳をつくっただけだった。初代学長がコンセプチャル嫌いであるこは事前にリサーチしていた。」


「スボイ学長は都心の漫喫に駆け込み、今までのことは全て忘れようと、アニメを見まくった。」


「その頃、カワグチの体重を支えきれなくなった十字架は根こそぎ倒れた。初代学長も、この件には興味を示さなくなり、ただ十字架に磔られたカワグチが、中央広場で転がっている状況だった。美大の奴隷たちも疲弊のあまり、倒れ込んでいた。」


「漫喫でアニメを見てケラケラ笑い、楽しいひと時を堪能していたスボイはとんでもないことを思い出した。カワグチに貸していたビデオがあったことを。そのビデオの内容には触れていなかったけど、相当ヤバイビデオだったらしい。」


「スボイ学長は意を決して、カワグチの元に帰ることを決心した。オレは磔にされたくない、カワグチからビデオを返してもらったら、日展会場に忘れ物を取りに行くと理由をつけて、再びカワグチを磔にしてもらえばよい。」


「スボイは時計を見たら、あと2時間しかないことに気が付いた。カワグチが殺されてしまえば、ビデオも返ってこなくなる。仕方がない、ハイヤーで軽井沢にある〇羽美術大学まで飛ぶことにした。」


「〇羽美術大学に到着し、初代学長の前に行った。スボイくん、君はそんなにボロボロになってまでカワグチとの友情を守ろうとしたのか。スボイの瀕死の表情は生まれつきであったため、初代学長はまんまと誤解していた。」


「カワグチくん、僕は君に殴られないといけない、シャバの空気を吸った途端に一度だけ君のことを忘れ、戻ることをためらった。スボイくん、僕こそ、腹が減り過ぎて君のことを忘れたことがある。お互いに殴り合おうじゃないか。」


「二人は様々な感情の入り乱れからボコボコに殴り合った。スボイ学長は、カワグチの首を絞めながらビデオを返せと見元で囁いだ。」


「その二人の友情を観た暴君初代学長は感動し、スボイを許し、カワグチと共に〇羽美術大学の教授に任命した。」


「三世くん、何この話?」


「だって、そう書いてあったんだもの。」


「スボイ学長が必死で戻ってくるほど、返してほしかったビデオの内容が気になるわ~。」





 

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