第124話 魔の44歳ミッドライフ・クライシス

「ダイラさん、中年の危機はご存知?」


「ミッドライフ・クライシスですよね。40歳頃から、体力の衰えや、環境の変化によるストレスなどで人生を憂う時期だと・・。」


「アートの力を見定める前に、私たちの限られた人生における、アートとの関わりを見つめましょう。」


「水木さんは、中年の危機はございましたか?」


「わしの漫画が異常に売れて、大量の連載に追われていた日々に、危機的状況になった。44歳にゲゲゲの鬼太郎がアニメ化され、プロダクションを設立した。貧しかったときは、売れたい食いたい一心で筆を走らせていたが、時間的な余裕もあって、個人的な趣味やら研究ができた。しかし、この時期は忙し過ぎて、仕事に殺されると考えるようになったんじゃ。44歳以降は苦しんだ。」


「49歳のとき、26年ぶりにトライ族に再会したのですよね。」


「今まで、塞いでいた本当にやりたいことがっと出てきたんじゃ。総員玉砕せよ!と、のんのんばぁとオレという漫画を描いた。わしの青春時代を取り戻したくなったんだ。」


「体力の衰えと共に青春時代を振り返る行動はまさしく、ミッドライフクライシス。」


「過去を振り返ることが、こんなに楽しいとは考えていなかった。世の中が豊かになっていくことに反発して、天邪鬼的気分も味わえた。戦争が消えゆく時代に、再び戦争の愚かさを表現できたことも、機動力の一つとなった。」


「私もハプニングアートをやり過ぎて疲弊した頃、ベトナム戦争終結と共に、44歳でニューヨークから日本へ帰ってきたわ。それからは自伝的要素の強い小説を大量に書いたの。そこから、ヤヨイブームが再燃したのよ。」


「ヤヨイさんも44歳で転機が訪れたのですね。」


「松澤さんのミッドライフクライシスはいつですか?」


「僕は42歳で、オブジェを消せと啓示を受けた。その2年後44歳のとき、1966年に開催された『現代美術の祭典』で展示した《消滅の幟》は、「人類よ消滅しよう行こう行こう(ギャテイギャテイ)反文明委員会」と墨書きし、以降、僕の代名詞の作品となった。生誕100周年でも、一番注目を浴びたかな。」


「3人に共通するのは、大きなターニングポイントを迎える行動や作風の変化が見られることね。ダイラさんは、44歳のときにはどのような行動をされたのでしょうか。」


「今の特殊照明作家に繋がるビジョンをもち始めていたかもしれません。これから、44歳の頃のデーターを漁って確認してみます!」


「TAROさんの44歳は、アトリエを青山に移し現代芸術研究所を設立。『今日の芸術』がベストセラーになった年よ。」


「ミッドライフ・クライシスは、生まれ変わるタイミングなのね。」


「少例で、それを決め付けることは非化学的ですが、44歳という年齢には何か特別な空気が漂っていますね。このダイラ物語の前にミリオンセラーとなった、も作者の年齢は44歳でした。」


「言えることは、人生のUターンで、残りの人生で本当にやりたいことは何なのか、自分を再定義する時期のようです。」


「ということは、44歳以降に夢中になっていることは、その人の中で本物になる可能性があるってこと?」


「次は世界のアーティストの44歳、ミッドライフ・クライシス調査をしましょう。44歳以降の人生に変化が起きた方がいらっしゃったら、情報提供を!」

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