第376話 無力と創造

「無力の中の創造」


1. タイムマシン修理中の雑談

ダイラとクワヤマダくんは、またしても壊れたタイムマシンを前に途方に暮れていた。お馴染みの平さんに修理を頼み、二人はコーヒー片手に時間を潰していた。話題は美大時代の同級生、ヒガノへと自然に流れた。


クワヤマダくん:「ヒガノ、教授に『君の作風には魂がない』とか言われてさ、もう作家やめるとか言い出したんだよ。」

ダイラ:「魂がないって…芸術をそんな風に切り刻むのもどうかと思うな。」


ダイラは苦笑いしながら、ヒガノがどれだけ自分の作品の評価に一喜一憂していたかを思い出した。


2. アートの評価とは?

クワヤマダくん:「あいつ、本気で作家やめようとしてる。『自分の作品が認められないなら、もう意味がない』ってさ。」


ダイラは少し考え込んだ後、ゆっくり言った。

ダイラ:「でもさ、本当はアートって、そんな評価を求める範囲のものじゃないと思うんだよな。」


クワヤマダくん:「お?どういうこと?」


ダイラは空を見上げ、続ける。

ダイラ:「アートだって、戦争や天災みたいに、人間の力じゃどうにもならない部分があるんだよ。本質的にはゴールがなくて、宇宙的なんだ。だから、本当は評価なんて求めるべきじゃない。」


クワヤマダくん:「でも、それ言ったら絵を描くのも、作品を発表するのも無意味に思えてこないか?」


ダイラ:「いや、むしろその逆さ。意味を決められないからこそ、自由なんだ。だからこそ、誰でも気軽に手をつけられるんだけど、いざ深みにハマると、評価なんて超えた世界に足を踏み入れることになる。」


3. 無力と創造の相関

クワヤマダくん:「無力って、そんなに悪いことじゃないのかもな。人間が無力だから、逆にアートとか創造性が生まれるってことか。」


ダイラ:「そうだ。完璧な世界じゃ、アートなんて生まれない。『自分じゃどうにもならない』って無力感があるからこそ、人は何かを形にしたくなる。」


クワヤマダくん:「なるほど。だから、ヒガノが戦争を止められない自分に悔やむことはないのに、作品が評価されないことで悩むのか。」


4. ヒガノの葛藤

その時、修理が終わるのを待つ二人の前に、ヒガノがふらりと現れた。

ヒガノ:「もうダメだ…。教授に叩かれて、俺の作風は完全にダメだって分かったよ。」


ダイラは優しくヒガノの肩に手を置く。

ダイラ:「ヒガノ、お前は戦争が止められない自分を悔やんだことあるか?」


ヒガノは驚いた顔で首を横に振る。

ダイラ:「だろう?人間は、自分の力が及ばないことは悔やまない。でも、作品の評価みたいに手の届きそうなことにはこだわる。だが、本当はアートも評価なんて超えた存在だ。意味や価値なんて、期待しなくていいんだよ。」


ヒガノは戸惑いながらつぶやく。

ヒガノ:「でも、どうしても悔しいんだ。評価されないと、自分が無意味に思えて…。」


5. 創る意味は結果を超える

クワヤマダくん:「確かに、お前が描いた絵が戦争を止めるわけじゃない。でも、それが何だ?評価されるかされないかなんて、世界の成り立ちに比べたらどうでもいいことだろ?」


ダイラは続ける。

ダイラ:「意味やゴールを決められないからこそ、アートは人間の手に委ねられてるんだ。無意味だと思うことも含めて、それが創るってことなんだよ。」


ヒガノは少しだけ目を細めた。その言葉が心の奥に響いたようだ。


6. タイムマシンと次の旅

そこへ平さんがタイムマシンの修理を終えて戻ってきた。

平さん:「よし、これでまた好きな時代に行けるぞ。」


クワヤマダくんがニヤリと笑う。

クワヤマダくん:「次はどこ行く?過去の戦争を止めるか、それとも未来で平和を探すか?」


ダイラは笑いながら言う。

ダイラ:「どっちでもいいさ。どうせ、何が起きても俺たちはまたやり直すんだから。」


タイムマシンが静かに起動し、三人を包む光が眩しく輝く。ヒガノも、その眩しさの中で少しだけ肩の力を抜いたように見えた。


ヒガノ:「もしかして、俺も次の旅に連れてってくれる?」


ダイラ:「もちろんさ。お前の悩みなんて、次の時代じゃ笑い話になるかもしれないからな。」


7. 新たな視点へと向かって

タイムマシンは光の中へと消え、次の旅に向かった。彼らがどこへ行こうとも、アートの評価や人生の意味を決める必要はない。創ること自体が旅であり、たとえそれが無意味に見えても、それこそが人間の力なのだ。


そして、その旅の先で、彼らは何を見つけるのだろうか――それもまた、意味を超えた創造の一部である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る