第347話 混濁とドーム

ダイラ、クワヤマダくん、そして平さんが時空の歪んだアトリエに佇む中、突然ダイラの視線がクワヤマダくんの頭に注がれた。彼が被っている帽子は、一見普通の水泳帽に見えるが、よく見ると無数の小さな穴が開いている。ダイラが気づく前に、平さんが驚いたように叫び出した。


平さん:「それは…それは僕が近い未来に構想していた『コンタクトドーム』だ!なんで君の帽子になってるんだ!?」


クワヤマダくん:「え?帽子?…俺、何か変なの被ってるのか?」


クワヤマダくんが自分の頭を触ると、確かにその帽子は、ぴたっとした水泳帽のように密着していて、そこから無数の穴が星空のように空いていた。しかも、その穴から彼の髪の毛が細かく伸び、絡まり合って奇妙な形を作っている。


平さん:「これだよ、これ!僕の未来の傑作、広島の原爆ドームの型を使った『コンタクトドーム』だ。プラネタリウムのように無数の星空を作り出す作品になるはずだったのに、なぜか君の頭に乗ってるとは…!こんなことが起こるなんて、まさにパラレルワールドだ…!」


ダイラは困惑しつつも、この状況に冷静に向き合っていた。平さんは興奮し、すぐにでもアトリエに戻ってその『コンタクトドーム』の作品を仕上げたいとせがんでいる。


平さん:「ダイラくん、早く僕をアトリエに戻してくれ!このインスピレーションが逃げないうちに、早くドームを完成させなきゃ!」


しかし、一方でクワヤマダくんは未だ胴体を探している。彼もまたダイラに向かって不満そうに言った。


クワヤマダくん:「なあ、俺の胴体はどうなったんだよ?帽子とかはどうでもいいから、早く俺の胴体を見つけてくれよ!このままじゃ、俺の髪の毛だけがどんどん伸びていっちまう!」


ダイラは頭を抱えた。片や、未来の大作『コンタクトドーム』を今すぐ完成させたい平さん。片や、胴体を早急に見つけて欲しいクワヤマダくん。どちらの要望も無視できないが、この状況をどうにかする策が見つからない。


ダイラ:「平さんも、クワヤマダくんも、ちょっと落ち着いて…これは時空の歪みの影響で起こっていることだ。まず、どちらを先に解決すべきか考える必要があるが…」


その時、ふとダイラの中に一つの思いつきが浮かんだ。


ダイラ:「もしかしたら、二人を一度時空の海に落とせば、一旦リセットできるかもしれないな…」


そう考えると、ダイラの手元に現れたのは、時空の海へ通じる開かずの扉。ダイラは一瞬躊躇したが、クワヤマダくんと平さんの異なる要求に板挟みになっていた彼にとって、これが最も合理的な解決策に思えた。


ダイラ:「よし、二人とも…ちょっとの間だけ我慢してくれ。これは全ての問題を解決するための最善の方法だ…!」


ダイラはそのままクワヤマダくんと平さんを押し込むようにして扉を開け、二人を時空の海に放り込んだ。


クワヤマダくん:「えぇ!?おい、何だこれ!」


平さん:「こんな方法で僕の作品が完成するとは思わなかったけど…面白いな!」


二人は時空の海に飲み込まれ、瞬く間にどこかへ消えていった。ダイラは扉を閉じ、深呼吸をした。


ダイラ:「これで少しは静かになるだろう。さて、時空の流れが落ち着いた頃に、彼らを拾い上げに行こう…それまで、僕は少し休憩でも取るかな。」


時空が歪み、再び静寂が訪れたアトリエ。ダイラは、彼らが戻ってくるまでの間、次の策を考えることにした。


【次回予告】


時空の海に放り込まれたクワヤマダくんと平さんは、果たしてどこへ流れ着いたのか?無限に広がる時空の波間で、二人が遭遇するのは、未だ見ぬ未来か、それとも過去の遺物か…!?さらに、ダイラが密かに考える「時空の修正計画」とは一体何なのか?


混乱する時空、絡み合う謎とアート!次回、『時空の海に沈むアトリエと胴体の行方』。クワヤマダくんの胴体は見つかるのか、そして平さんの未来の大作は完成するのか?カオスと哲学の狭間を漂うこの冒険、絶対に見のがすな!

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