第166話 イデアとアイデア

「ダイラさん、やっぱり昨日も眠れませんでした。」


「クワヤマダくんの脳は覚醒中なんだね。アーティストは大体眠れないもんだよ。」


「僕は7時間は寝ないと、次の日クラクラしちゃいます。」


「眠れないときは、ダイラ物語を1話から読み直すことをお勧めするよ。30話辺りで寝落ちするから。」


「マジっすか?最近のダイラ物語は物語の体を成していないような気がします。」


「おっと、クワヤマダくん、物語の体って何だい?」


「また哲学ブームですか。ダイラさんも秋の夜長はどうでもいいこと考えちゃうんですね。」


「クワヤマダくんがイメージしている物語こそがイデアなんだよ。そのイデア化された物語を表せるかな。」


「イデア?」


「例えば、世の中には何万種類の花が生息しているけど、花を頭の中でイメージすると、共通した形を思い浮かべるよね。それが花のイデアなのだ。万物にはイデアが存在する。自分らしく生きようと言われて何となく思い浮かべる形もイデアだ。」


「僕が思い悩む原因は、雑多なイメージのイデアを探しているってことでしょうか。」


「どんな抽象形態であってもコンテンポラリー、ミニマムでも、それぞれのイデアが存在する。作家はそのイデアを求めて造形するから、苦しいんだよ。あるようで無いからね。」


「発音がアイデアと似ていますが関係あるのですか?」


「イデア(idea)とアイデア(idea)は同じ意味だよ。ギリシャのプラトンが提唱したideaが、英語読みではアイデアになった。ナイスアイデアとは、よい概念という意味にもなる。」


「今日はプラトンですか!眠れにゃいパターンですわ。」


「プラトンは、芸術作品はイデアの模倣である自然をさらに模倣したものだと言っている。」


「僕たちが観ている世界はイデアの模倣なのですね。自然を描写したり、自然物から影響を受けて作ったものは、模倣の模倣ということですか。」


「更に、自ら生み出した創造物は模倣と模倣の複合物とも言える。」


「模倣と模倣の複合物のイデアを生み出すのにはやはり、困難を極めることは間違いないですね。」


「オレだって市川平氏の模倣物だからね。」


「と言うことは、市川平氏がダイラさんのイデアですか?」


「まぁそう言うことになる。」


「僕が作っている作品もイデアに成りうるかもしれないですね。」


「模倣物が多様で複雑であればこそ、イデアが映える。」


「逆を言うと、イデアの市川平氏の輝きがあるから、模倣物のダイラさんが映えるということも言えますね。市川平氏を模倣する人々が増えれば増えるほど、市川氏イデアは輝きを増す。」


「ものまね芸人がたくさんいる役者ほど輝いていますよね。金八先生みたいに。」


「また武田テツヤか!でもそう言うこと。」


「逆に考えると、複雑怪奇な事象や現象からイデアを見つける試みが成功すれば、となりますね。」


「ゴチャゴチャしていた日本のアート界を爆発させ、当時日本現代アーティストと言えば岡本太郎とイデア化されたのも象徴的だ。」


「芸術は爆発だ!が日本アート界のイデアだとすると、とんでも無い数の模倣が生まれましたね。」


「よし、ここからがイデア界の話が盛り上がるところ!」


「せんぷわ~い。もう眠くて仕方がありません。お休みなさい。」







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