第40話 TAROと有司男のアレクサンダー
岡本太郎(TARO)に憧れたアーティストは星の数ほどいるが、その中でも、TAROの影響を強く受け、周囲から一番弟子と呼ばれたのは、篠原
ギュウちゃんはTAROとは師弟関係ではなかったが、作品の毒々しさや爆発加減は継承していた。
TAROが爆発をシャープでカラフルなムーブメントで表すとしたら、ギュウちゃんは、歪んだ線でぐちゃぐちゃさせながら、サイケデリックな色彩で表す。
TAROの爆発理論を咀嚼して、独自の絵画、特異な造形とさせ昇華させたのがギュウちゃんだ。
二人の作品を連作という見方で見ると面白い。
若くしてニューヨークに飛び立ち、町ビルに50年以上住み、現在もバリバリと奥さんと共に制作活動を続けている。
★
ダイラとコウジは、彫刻科研究室で、ギュウちゃんの作品集を広げていた。
研究室のドアが開いた。
「こ、こんにちは、ぼくは、篠原アレクサンダー空海と申します。」
やたら丁寧な、素朴で伏し目がちな青年が入ってきた。
ギュウちゃんの息子が、ムサビに短期留学してきたのだ。
偉人の息子ということで、ダイラとコウジは緊張した。
ギュウちゃんは、ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズというアート集団の一人として、読売アンデパンダン展で大暴れしていた、生きる伝説だった。
ギュウちゃんは、身近なモノをキャンバスに張り付け、カラフルにペインティングをしたり、モヒカンで、ボクシングペインティングしたり、段ボールを切り張りして巨大なオートバイを作ったりしていた。
息子さんは、ギュウちゃんとは正反対な性格に見えたが、名前にはかなりのパンチがあった。
ダイラとコウジは、TAROの弟子の息子という認識から、見た目は大人しいが、もしかしたら、もの凄いパワーを秘めているのではないかと感じていた。
アレクサンダー空海くんは、誰に対しても丁寧に深々とゆっくりとお辞儀をする。ハチャメチャなダダイズムの息子とはどうも思えない。
ダイラは、空海くんを太陽の塔と岡本太郎記念美術館に連れて行こうと考えていたが、彼の性格を見て、これは違うなと考えを改めた。
高さだけなら、太陽の塔を超える、牛久の大仏を見に行くことにした。
★
ダイラとコウジはギュウちゃんをリスペクトしたバイクの作品で、空海くんを迎えようと考え、数か月前から準備していた。
コウジは、改造バイクの後ろに、アレクサンダー空海くんを乗せた。
ダイラは軽トラに、同じく自ら改造したバイク(自転車改造)を乗せて、コウジの後ろを走った。
牛久の大仏が見えると、コウジは路肩に止まった。
「空海くん、あれが、ウシオの大仏(120m)なんだぜ、サイズはTAROの太陽の塔(70m)を超えているんだ。師匠を超えたんだよ。まぁ、高さだけなら、ブロンズ像世界一位だから、自由の女神も超えてるけどね。」
「お父さんの憧れは、岡本さんです。いつか、太陽の塔を超えるべらぼうなものを作るんだと息巻いています。僕の学費や生活費は全て、段ボールやアクリル絵の具、キャンバス代に消えました。一人の人生を狂わすだけでなく、周囲の家族にまで影響を与えるTAROさんのエネルギーには感服します。TAROを超えたウシオの大仏は、何とも言えぬ存在感がありますね。」
そう言うと、空海くんは、遠くの大仏に深々とお辞儀をした。
この先は、ダイラさんのバイクで、とコウジが言い、軽トラの荷台から、ダイラがつくったプラネタリウムバイクに跨り、二人は大仏まで走った。
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