アタミダイラ

第231話 イップス物語(二刀流の流儀)

「WBC観てます?ラーズ・ヌートバー選手の注目度が爆上がりですよ。」


「もちろん観てるよ。中国戦と韓国戦は最高だった。ヌートバー選手の気迫を前面に出すプレースタイルは胸熱だよね。でも、4番村上様の調子が心配だよ。」


「期待が大きい分、プレッシャーも凄いだろうね。昨晩の韓国戦では好調の兆しが少し見えてきたんじゃないかなぁ。」


「村上様はスランプなんじゃないの?野球選手によくあるとかになっていたりして。」


「イソップ?」


「イソップ物語、寓話集じゃなくて、スポーツにおいてパフォーマンスの低下を引き起こす神経症の一種だよ。主にゴルフや野球などの精密な動作が必要なスポーツで見られるみたい。」


「うさぎが亀になるみたいな?」


「まぁ。そうとも言える。例えばゴルフでパターを打つ際に手が震えたり、ボールを正確に打てなくなるなどの症状が現れる。このような症状は、物理的な問題ではなく、脳の神経回路に何らかの障害が起きたことが原因のようだ。」


「やり過ぎの天才が陥る疾患って感じですね。」


「イップスは、ストレスやプレッシャー、過剰な緊張などが引き金になることが多く、特にパフォーマンスに対する期待が高まる場面で発生することが多い。スポーツ選手に限らず誰にでも起こり得るものらしい。」


「飲み過ぎて、字を書くときに手が震えるやつですね。」


「ちょっと違うかな。その対処法も様々な方法が提唱されている。例えば、リラックスした状態で練習する、イメージトレーニングを行う、技術的な修正をする、精神的なカウンセリングを受けるなどの方法があるようだけど、村上様の不調が続けば、その可能性もあるかも。」


「そうかぁ。心配ですね。それにしても大谷選手の化け物感は半端ないですね。」


「そうだよ。大谷選手こそ、イップスに陥っていてもおかしくないはずだよ。だって、ピッチャーで4番なんて、少年野球か漫画の世界だけだからね。」


「顔が小さく体が大きいということで、リアル翼くんと海外では言われているらしいです。あの体格は日本サッカー界に欲しい存在です。」


「しかも3.11を青春時代にもろに被った選手(当時花巻東高校)だから、周囲からの期待も超絶なはず。プレッシャーやストレスは想像外だと思うよ。」


「二刀流にこだわっているのも、周囲の期待に応えたいからと私達は思いがちだけど、どうやら野球と震災をところに彼のメンタルの強さがあるみたいですよ。」


「人間の心の仕組みはかなり複雑で、心技体のバランスを崩すとうまく機能しないことを知っているんだね。妙な期待を勝手に背負い自滅する人はたくさんいるけど、活躍している人は案外軽やかな印象がある。背負っていない感じ。」


「期待を背負い過ぎるとメンタルによくないから活躍できない→周囲からガッカリされる。何も背負わないとメンタルが軽くなり活躍できる→周囲から評価される。活躍を期待されているなら、何も背負わないという理論が成り立ちますね。」


「勝っても負けてもベンチでにこにこして、仲間を鼓舞する大谷選手は、メンタルのお化け?多分、WBCに出ること自体そんな大したことじゃないと思っていそうだよ。河原のグランドで草野球をして楽しんでいる雰囲気だ。」


「村上様も打てなくても、ベンチで明るく振舞ってほしいですよね。そう言えば、ブラボーで一世風靡したサッカー日本代表の長友選手もベンチで明るく振舞っていましたよね。」


「そうそう、うまくいこうが失敗しようが、皆で楽しくやるってことが、プレッシャーを跳ねのけて、多くの人の心を明るくするんだよね。楽しむことが人間のパフォーマンスを最高にするなら、楽しむことしか選択肢はない。」


「笑う門には福来る。」


「これはイップス物語になりそうな話だね。」





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