第350話 ニューヨーク大首物語
時空の歪みから再び引きずり出された平さんとクワヤマダくんは、まばゆいネオンが輝く街に着地した。そこは、20世紀後半のニューヨークだった。だが、何かがおかしい。街角のギャラリーに掲げられたポスターには、マリリン・モンローのシルクスクリーンが並び、そのサインには「写楽」と記されていた。
「マリリンモンローのシルクスクリーンって…アンディ・ウォーホルの作品じゃないのか?」とクワヤマダくんが顔を傾ける。
「どうやら、歴史が狂ってるな」と平さんが言い、二人はそのギャラリーに足を踏み入れた。
ギャラリーの中央には、和服姿で髷を結った一人の男が立っていた。彼の傍らには、かの有名なアメリカ現代美術の巨匠、アンディ・ウォーホルが痩せ細く青白い顔でひっそりと控えていた。アンディは筆やシルクスクリーンの準備をしながら、時折「先生」と呼び、その男の指示を受けていた。
「おい、あれってもしかして写楽じゃないか?」とクワヤマダくんが驚いて呟く。
「まさか…写楽がニューヨークに?しかも、アンディ・ウォーホルの上司みたいな立場になってるのか」と平さんも目を見張った。
写楽と名乗るその男は、江戸時代に一世を風靡した浮世絵師、東洲斎写楽そのものだった。しかし、どうやら彼は時空の歪みの影響で、江戸から逃れてニューヨークに渡り、現代アートの世界に進出していたらしい。彼は江戸で蔦屋に唆され、歌舞伎役者の大首絵を描いたことで大炎上し、その騒動に嫌気が差して能役者をやめ、アートの新天地を求めていたという。
「なんだか、妙な話になってきたぞ…」とクワヤマダくんが呟く。
写楽はクワヤマダくんたちの視線に気付き、ゆっくりと近づいてきた。「お前たち、顔が変わっているな。まるで江戸の芝居小屋から出てきたかのようだ」と、彼はクワヤマダくんをじろりと見た。
「ええと、あんたが本当に写楽? 俺たち、アンディ・ウォーホルがマリリン・モンローのシルクスクリーンを作ったんだと思ってたんだけど…」とクワヤマダくんは戸惑いながら尋ねる。
写楽は笑って答えた。「いや、俺が作ったんだ。アンディは元々、俺の付き人みたいなもんさ。彼は絵が得意だけど、まだ独自のスタイルを見つけられてないんだよ」
平さんが「それにしても、江戸からニューヨークに来たってのは驚いたな。蔦屋の炎上事件って、そんなにひどかったのか?」と尋ねると、写楽は深い溜息をついた。
「ああ、あの時は最悪だったよ。蔦屋に唆されて描いた歌舞伎役者の大首絵が、町中で酷評されてさ。『写楽、どこまで狂気に走るんだ』ってね。江戸での居場所がなくなった俺は、こっちに逃げてきたのさ」と、彼は肩をすくめた。
クワヤマダくんはさらに困惑した顔を見せながら、「でもさ、ウォーホルは現代アートの象徴じゃん? なんで付き人なんだ?」と問う。
アンディ・ウォーホルはそれを聞いて、照れくさそうに笑った。「僕はまだ見習いみたいなものなんだよ。先生の指導で、やっとシルクスクリーンの技術を身につけたんだ。でも、いずれ自分のスタイルを見つけて、ニューヨークで名前を残したいと思ってる」
平さんはふと腕を組み、真剣な表情になった。「時空の歪みがまた何かを狂わせたな…。本来ならアンディが独自のスタイルでブレイクして、現代アートの巨匠になるはずだったのに、今は写楽に仕えてるとは。でも、写楽とアンディの表したい本質は同じかもな。」
「これも、みんなちがってみんないい、ってことか?」クワヤマダくんは皮肉を込めて言うと、平さんは笑って答えた。「そうだ、クワヤマダ。ここもアートの一部さ」
写楽は二人の会話を聞きながら、「まぁ、芸術ってのはどこに行っても形を変えるものだ。俺も、今の時代に馴染んで生きるしかないんだよ」と言って、再びマリリン・モンローの顔に集中し始め、闘志を燃やしていた。
【次回予告】
ニューヨークの現代アート界に巻き込まれた平さんとクワヤマダくん、次はどんな歴史の歪みと出会うのか?写楽の浮世絵とウォーホルのポップアートが交わる奇妙な世界で、二人の冒険は続く。次回、『アンディの逆襲!? 写楽を超えたアートバトル』お楽しみに!
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