第113話 奇獣 傷ましき腕
「ねえねえ、最近、ダイラさん独り言が多くなったと思わない?」
「うん、昨日も、研究室の中から大きな声が聞こえたから、先生たちが何人かいると思って入ったら、ダイラさん一人だったのよ。」
「TAROのTシャツを着始めてから、様子が変わったよね。」
「ダイラさんに作品を見てもらっているときも、時々、TAROっぽく語り始めるんだ。身振り手振りもTAROそのもの。影響と言うより憑霊に近いよ。」
「大丈夫かしら・・。」
☆
「せんぱ~い。学生たちが心配していましたよ。」
「やっぱり、変な人に見られるよね。第100話以降、事あるごとに、TAROさんとしゃべっているもんなぁ。クワヤマダくん、TAROMAN第8話は観た?」
「せんぱ~い、まさか、あの傷ましき腕が奇獣として登場するとは思いませんでした。」
「TAROがパリで対極主義をコンセプトに描いた歴史的な代表作品だね。戦火で初期作品は焼失したこともあり、現在残っているのは、再制作した作品だ。ぼくも、奇獣となった傷ましき腕のイタズラや解き放つメッセージは驚いたよ。」
「おっす!君たち、あの赤いリボンの秘密は解けたかね。」
ダイラのTシャツの中央にプリントされてたTAROがしゃべりだした。
「TAROさん、急に出てくるんだよなぁ。DAIRAMANどうぞ。」
TAROが出現した瞬間からダイラはDAIRAMANとなる設定である。
「あの赤いリボンは、TAROさんの作品にはよく出てくるシンボルですよね。奇獣駄々っ子のリボンや太陽の塔の脇腹にもあります。」
「きりんのくび、てんまでとどく、お月様の顔を、四角くしろ」
「急になんですか、それ?」
「私が小学校3年時、『赤い鳥』という児童雑誌に投稿し掲載された詩だよ。かの子母さんにも絶賛された。才能あるだろ。でもその前に、小5の大岡昇平くんが、赤いリボンという詩で入選しているんだよ。」
「何か関係あるんですか?」
「リンリンリボン、赤リボン、むこうのお山に雨が降る、木になった銀の鈴が、リンリンリン、リンリンリボン、赤リボン、姉さまのかけた、赤リボン」
「『赤い鳥』は自分のお小遣いで初めて購読したんだ。そのときに大岡くんの詩を読んで衝撃を受けた。赤いリボンという大人の女性を象徴したシンボルを軽く照れながらリズミカルに泳がせる詩にはちょっと嫉妬したよ。私も赤リボンに勝るものを書きたいと強烈に思ったものだよ・・。そして、私は、この詩を読んで、自分でも背伸びをしてきりんのくびを書いたんだ。大岡くんには届いたかな。」
「その話の信憑性はあるんでしょうか?」
「私が言っているのだから間違いないだろ!初めての購読はその後の私が強烈に生きるきっかけとなったんだよ。」
「もしかして、購読こそ人間が強烈に生きるバネだ!とか言わないでくださいよ。」
「ふふふ・・。先に言わないでおくれ。まぁ、それは冗談として、赤いリボンは、私の親友であるセリグマンへのオマージュでもあるんだ。」
「抽象と具象を織り交ぜた、シュールレアリズム協会みたいなところから脱退した人ですね。」
「彼の描くものの中には、布やリボンがたくさん出てくる。地位や名声を捨てて、新しい自分の表現世界を切り拓くべく、孤独になるセリグマンの背中を見て、強烈にリスペクトしたんだ。私もこういう人間であろうと・・。」
「孤独こそ、人間が強烈に生きるバネだ!ですね、落ち着きました。」
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