第419話 タンス甲子園

クワヤマダくん:

「ダイラ先輩、未来の“長人”の話、マジでヤバくないっすか? 老人って呼ばれるのが嫌だからって、新しいカテゴリ作っちゃうなんて。」


ダイラ:

「ああ、長人な。普通の老人じゃなくて、歳を重ねて肉体の限界を越えた知恵と個性を持った存在ってわけだ。赤子、子供、青年、成人、そして長人。その先が“情人”だってんだから、未来も随分進んでるよな。」


クワヤマダくん:

「情人って、肉体なくなっちゃってデータとかAIになって活動続けるやつでしたっけ? 完全に幽霊じゃないっすか、それ。」


ダイラ:

「幽霊っていうより、新しい形の市民だな。今で言うSNSアカウントみたいな感じだけど、あれが主体になって社会で動ける。まあ、お前みたいな奴にはピンとこないだろうけど。」


クワヤマダくん:

「いや、俺にはまだ肉体があるうちに楽しみたいことが多すぎて……。でもさ、タンス甲子園の話は笑ったわ。あのエルエルブラザーズ、マジで伝説っすよね。」


ダイラ:

「ああ、50歳差の兄弟コンビな。兄の方は江戸時代の古民家から掘り出したタンスに、1億円分の現金と戦前の株券、さらには幻の絵画まで詰め込んでた。あれは会場盛り上がっただろうな。」


クワヤマダくん:

「弟の方は逆に未来感満載だったっすよね! 透明のタンスに暗号資産のキーコードが収納されてるとか、あの場にいた誰も価値がわかんないレベル。」


ダイラ:

「つまり、兄のタンスが過去と伝統、弟のタンスが未来と革新ってわけだ。それが同じ舞台で並ぶんだから、そりゃ観客も泣くわな。」


クワヤマダくん:

「でも、タンス甲子園なんて名前聞いたときは、ただのくだらん企画だと思ってたんすよ。でも、実際は長人たちの人生そのものを見せてもらった感じがして、なんか深かったっす。」


ダイラ:

「だろ? タンスに詰められてるのは、金や物じゃなくて記憶や愛、彼らの生きた証明だ。だから、あんなに輝いて見えるんだよ。」


クワヤマダくん:

「長人たちが言ってた言葉、覚えてます? “人間は何歳になっても欲望は消えない。むしろ新しい欲が生まれる。自分探しは今すぐやめろ!満足なんて幻想だ”ってやつ。」


ダイラ:

「うん、それで締めくくりがこうだろ。“未完成だから人生は面白い”。未来の連中、刹那的だよな。」


クワヤマダくん:

「確かに。未完成でいることを楽しむって発想、なんかカッコいいっすね。」


ダイラ:

「お前が長人になったらどうするよ? タンスに何を詰める?」


クワヤマダくん:

「うーん、未来で考えようかと思ったけど、先輩の話聞いてたら、今から用意してもいいかなって。今の俺が未来の俺に残せるもの、何か考えときます。」


ダイラ:

「そうしろ。お前みたいに、ギリギリでなんとかしてきた奴が、未来でどう転ぶか楽しみだ。」


クワヤマダくん:

「ちょっと、ひどくないっすか!? でもまあ、長人になれるなら俺もギラギラしたいっすね。」


夜の喫茶店の窓の外、現代の街並みは静かに広がっている。けれども二人の会話の中で描かれる未来は、光に満ちたものだった。

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