第388話 しっぽのバロメータ

ある日、世界は突如として変化した――人々のお尻から、それぞれ色も形も異なるしっぽが生えてきたのだ。そのしっぽは、なぜかただの毛の塊ではなく、見る人に強烈な印象を与える不思議な存在だった。街中は騒然となり、人々は自分のしっぽを鏡に映しては眉をひそめ、あるいは誇らしげにひねりながら眺めていた。


ダイラはその光景を面白そうに眺めていたが、ふと隣を見ると、クワヤマダくんも首をかしげていた。

「クワヤマダくん、見てみろよ。あいつのしっぽ、信号みたいに赤いぞ!」

「あっちの人のしっぽ、もっさもさでぐにゃぐにゃだぞ。なんで皆そんなにしっぽを気にするんだろうな?」

クワヤマダくんがそう言うと、まるで魔法の言葉のように、それをきっかけにしっぽを巡る不思議な会話が始まった。


「まぁ、しっぽなんてただの飾りだろ?」とクワヤマダくんが言うと、ダイラは肩をすくめた。

「そうかもしれない。でも、ほら、しっぽの形や色がそれぞれ違うってことは、何かその人自身の特徴が表れてるのかもしれないぞ?」

「まるで占いかよ。“赤いしっぽの人は情熱的”とか、“白くて細いしっぽは冷静沈着”とか、そんな感じ?」

「案外それ、当たってるかもしれないぞ。だって、ほら、しっぽが細くてカーブしてる人、やたらと冒険的な顔つきしてないか?」


ふたりは道行く人のしっぽを観察しながら、その一つ一つに「意味」を見出そうとする遊びに夢中になっていった。まるでそこに、隠された人間の性格や未来が反映されているかのように。


そんなとき、後ろから小さな声が聞こえてきた。「このしっぽ、成長するのかしら?大きい方が偉いのかしら…?」

それを聞いてダイラは笑いながら答えた。「しっぽの大きさで地位が決まるなんて、ちょっとした新しい階級制度だな。色と形の組み合わせで貴族が決まるとか、荒唐無稽すぎて逆に面白い。」


クワヤマダくんも苦笑いしながら頷いた。「でも、そういうのが好きな人もいるかもな。なんでもランクづけしたがるやつらっているし。」

道端の猫が、ふたりの話に興味があるのかないのか、長いしっぽを手元に巻きつけ、静かに彼らを見上げていた。きっと猫にとっては、しっぽなんてただの自然な一部であり、人間がなぜこんなに大騒ぎしているのか理解に苦しんでいるのだろう。


やがてダイラは思案深げに言った。「でもさ、考えてみると、こうしてしっぽが生えたことで、みんな自分の内面や他人の違いに改めて向き合わざるを得なくなったんじゃないか?」

「それはあるかもな。しっぽの色や形が違うだけで、まるで自分の新しい一面を見つけたかのような気がするもんな。」


ふたりはその後も、しっぽを巡る真剣な考察を続けた。しっぽという新しい自分の「一部」をどう受け入れるか、何を表すのか。もしかすると、しっぽの色や形の違いは、外見以上にその人の「本当の自己」を映し出しているのかもしれない。


そして、ふたりはふと気づいた。このしっぽという現象は、単に新しい身体の特徴を得たこと以上に、未知の自分や他人を理解しようとする「旅」の始まりだったのかもしれない。しっぽを通じて、自分をどう捉えるのか、他人とどう向き合うのか――それが、いつしか人々の間で新たな哲学的テーマとして語られるようになっていったのだった。

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