第13話 バオバブ2~ダイラ仮説~

1968年 関根伸夫は「地球に穴をあけ、そこから営々と土を掘り出すと、いつか地球は卵の殻の状態になる、さらに表皮をつかみ出すと、地球は反転し、ネガの地球になってしまう」そんな思考実験から生み出した、というとなる作品を発表した。


大地に大きな穴を円柱状に掘り、掘った穴の横に、掘り出した大量の土を円柱状に積み上げた。


モノに極力手を入れず、で表す。


1970年代、人類と自然が共に歩む、生命科学の思想や環境芸術、1990年代の「」とするJ・E・ラブロックらが提唱したにつながる。


研究室にが暗い顔をして入ってきた。


「ダイラさん、あいつら(学生)、何も考えてないんですよ。特に、現代美術をバカにした態度をする奴らが許せなくて・・。あのカミブウなんか、巨大な自分の顔をつくり始めたんですよ。意味が分からないですよ。あいつが陣取っている場所は、油絵学科の敷地なんですよ。何回言ってもの一点張り。オオクボダはどっかから廃車を拾ってきて、空中で回すとか言っていますし・・。」


「まぁまぁ、それが学生ってもんだから仕方ないよ。」


「怒られるのは、僕なんですよ!学生を管理しろって言われるから、ただ真面目にやっているだけなのに、特に今年の4年生は言うことを聞きません。デタラメな行動する奴らばかりで。」


「俺からも、言っておくからさぁ~。怒らないでスボイちゃん。」


「ナガムラなんか、俺に食ってかかってきたんですよ。文句言う前に、あなたたちは、私たちに何かアートについて教育してくれたんですか?って・・。その横でカミブウがしてやがってムカつきましたけどね。」


「それ、何となく分かる。俺も学生の頃、ジャンジャン制作してたから、気付かなかったけど、ここの大学って、生徒を放置し過ぎかもね。制作環境はいいんだけどね。」


「ダイラさんみたいに、といける人はまれで、ほとんどの学生は、作家にはなれないんですよ。でも、僕の立場からは何も言えないんです。放置した結果が、意味不明な自己主張をする、我儘わがままな4年生をつくったかもしれないと思うと・・。」


手を加えず、を大切にする。まさしくモノ派的教育。


誰かが〇をつくれば、誰かは□をつくる。


誰かがつくった△がブームになれば、皆△か▲をつくる。


モノ派やミニマル、環境芸術、現代アートがひしめく時代、学生たちの思考は混沌としていた。


ただでさえ、モラトリアム期の中、卒後の就職もできない、作家にもなれない、無名の若者たちが、社会にされる。


大学4年間で、自分の表現や生き方を見つけることは、ほぼ不可能である。


卒後、勢いで突き進み、引き返せなくなる者もいる。


な行為の先端に、新しい何かが生まれるのか?不安で、何も制作しなくなる者もいる。


モガミ教授は、「表現のを行け」と学生に言っていた。


先端とは何か、禅問答である。


モノには形としての先はあるが、表現に先はあるのだろうか。そもそも表現はなのか。


ダイラは、バオバブ・プランテーションの構想の中で、バオバブの幹の無数の穴から光がもれる設計をしていたが、幹の中央、天井に向かって光がじれながら、もれ広がる設計に変えた。


卒業生たちの将来が針の先のようにすぼむのではなく、無限に広がることを願って。


「あいつらは、作家にはならないかもしれないけど、ここで過ごした意味はあると思うよ、形を残すことだけが表現じゃないからね。俺たちは、あいつらの人生の幹の一部なのかもしれない。スボイさんも、俺も、彼らの養分だと思えばいいんじゃない。の場合もあるけどね(笑)」


「それは、僕もカミブウと一つの生命体ってことですか!?むむむ・・ですね。」











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