第12話 バオバブ・プランテーション
力と力をぶつけ合う、そんな人たちが彫刻科にはいた。
鉄を溶断、溶接する。石や木を彫る。ガスマスクをつけて猛毒なFRPを扱う。作品が完成するまでには、ガテン系のバイトのような作業工程がある。
鉄のバリをとるために使うディスクグラインダー(高速カッター)で股間をケガした。
丸太を切るためにチェンソーを使ったら、リバウンドで顔面にチェーンの刃型が傷として残った。
ガスマスクが古く、FRPで使うシンナーを吸い過ぎて、ラリルララになった。
自ずと、制作をするときには、皆マジになる。
そのため、男女問わず、気が付くと筋力がついてくる。
人は筋力がつくと、その筋力を試したくなるのが自然だ。
制作が終わった後、ガテン系のバイトに
夕暮れ時になると、アトリエではアームレスリング大会が行われた。
皆ほぼ、酔っている。
2000年、ダイラは美大の講師をしていた。
学生たちの腕自慢を遠目で観ながら、研究室で自ら日課としていた腕立て伏せをしていた。
後輩のクワヤマダが研究室に入ってきた。クワヤマダは卒業していたが、ダイラにちょくちょく会いに来ていた。
「せんぱーい!ナガザワさんにまた負けました!」
ナガザワさんとは、石彫工房で働いていた
ナガザワさんは笑っていた。
ダイラはもう一回やってみなよと、二人を煽った。
結果は同じだった。
クワヤマダは彫刻科の中でも、かなり重量のある鉄を使った作品を制作していた。男性二人でようやく運べるような鋼材も一人で担いでいた。逆三角形の体形で、筋肉のつきかたはダイラとはいい勝負だった。
しかし、一日中、石と格闘していたナガザワ先生とは筋肉の質が違っていたようだ。
★
ダイラは、この頃、素材に固執しない作品を発表していたが、やはり、素材との相性があることも同時に理解していた。
クワヤマダの個展で、分厚く重い鉄板がジグソーパズルのように軽やかに溶断され、無数に天井から吊るされている作品を見たときに、好きな素材からインスパイヤーされることは充分にあることを感じていた。
ナガザワさんが、一年中石と格闘する理由は、メドューサに石にされた大切な人を、彫り出しているのかもしれない。言語化はできないが、作家には好きな素材があり、人知を超えた無意識の世界で、お互い出会いを待っている。
★
腕まくりをして、腕相撲に燃え、勝った負けたの小さな張り合いをする、人間の悲しい
筋繊維と筋繊維がねじれ絡み合い、浄化する世界観は、人間の
一回、こだわりを捨てたことで、この地球で生きる大きな命の
今の自分しかつくれない、特殊な生命体が頭の中に出現した。
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