ダイラの夜明け

第11話 コンディショナル・パラダイス

1995年 地下鉄サリン事件が起こった。


様々な人たちの未来を乗せた電車の中、駅構内で、突然時間が止められた。


高学歴エリートを集めた、新興宗教団体の犯罪だった。


本来、虫一匹も潰せない優しい人物でも、自分が信じた正義を全うするためなら、となる。


正義と正義がぶつかりあうとき、戦争が始まる。


世界の平和を祈った欧米人により、広島、長崎には原爆が投下された。


人間は、大義名分のためなら、可能性がある。


「人類は宇宙のためには必要ないんじゃないか。」と誰かが言い出したら、生存本能を凌駕りょうがする、希死念慮を人類はもってしまうのではないだろうか。


ダイラは、プラネタリウムシリーズの制作を続けるなかで、人間の危うあやうさについて、疑問をもち始めていた。


一瞬にして、世界を危機的な状況にしてしまう、思考のもろさ。


美大のFRP工房の隣に、チャボ小屋があった。その隣には小さな池があり、ガチョウが泳いでいた。


ダイラは、人間の思考が生み出した文明ブンメイで生きる俺たちは、チャボやガチョウと変わらないんじゃないかと思った。


養老タケシはと言っていたが、この世界はもっと自由でいいはずなのに、様々なしがらみや伝統のオリに自ら入り、もがいているんじゃないかと自分を俯瞰で見た。


が消えた。


自分が決めた世界観から自由になることで、違う風景が見えてくるのではないか。


思想や思考、評価や流れ、ブームのオリに自分を閉じ込め、人間が不遜ふそんな判断をしないためにも、オリの中でさを同時に表現したらどうかと考えた。


そのためには、素材は何でもいいはず・・。


正義感は、ある意味、頭に血が上る状態と似ている。


血が上ると正常な思考が働かない。


舞い上がっていることきは、夢を見るし、希望も感じる。


血が引いた瞬間、我に返り、足元を見つめる。


限られた囲いの中で、その繰り返しを続けていることを客観視することで、人間の脆さや限界を感じることができるはず。


ダイラは、FRP工房にあった数台の扇風機をチャボ小屋に入れ、強弱合わせて回し始めた。













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