第10話 1999/12/24
地球は平面であると、ダイラは子ども時代空想していた。
天空には巨大な透明なドームが張り巡らされ、太陽や雲、星空などの自然現象は、どこかの誰かが人工的に演出しているものと想像していた。
ジャンボスイカを食べながら見た入道雲も、人間の造形物ではないかと疑っていた。
★
ダイラには恐れていたことがあった。
ノストラダムスの大予言だ。
1999年7月に人類は滅亡する。世の中は終末思想ブームで混乱していた。
宇宙から怪獣が現れて、街を滅ぼすのであれば、ウルトラマンが助けてくれるが、どうやら、環境問題や核戦争、人間が人間を滅ぼすことを予言していることを知った。
★
もし、予言が当たるとしたら、私たちはどうするべきか。
透明なドームを突き破って、宇宙へ逃げ出すのか。
善良な思考をもった人間を多く育て集めて、平和な世の中をつくるのか。
人間の数と欲を減らし、自然と共生できる社会をつくるのか。
平面空間に生きる人類には限界があると悟っていた。
核ミサイルは透明ドームにぶつかり、次々に地上に落下してくる。
地の淵には、ミサイルが山積みになるだろうと。
ダイラは知っていた、人間は始めたら簡単には終われない、恐ろしい性質があることを。
★
地球平面説を信じるダイラは、地底にアリの巣のような巨大シェルターをつくることを考えていた。
ダイラの空想は止まらなかった。
地底の面積も限られているので、狭い空間でどのように生活するか。
全てのモノは高さ制限をし、機能的で場所を必要としないことが大原則である。
芸術文化も可能な限り残さないと、人間は心を病んで死んでしまう。
★
1998年のクリスマスイブ、後輩のクワヤマダがアトリエに来た。
ダイラは、
クワヤマダは、小さなクリスマスツリーとケーキを持ってきていた。
「せんぱーい、一緒にクリスマスしましょー」とその瞬間、アトリエに無造作に置かれていた鉄板のバリに靴底を引っ掛け
ダイラの思考回路に電撃が走った。
1999/12/24
三角形の鉄板をミサイルの弾頭とスクリューを組み合わせた巨大な形態に繋ぎ合わせ、斜め10度の角度に倒し、そこにクリスマスツリーを模した装飾をした。
ゆっくりと自動でローリングしながら、無数の穴から光がこぼれた。
狭い空間は、世紀末の夜空を演出していた。
人類の滅亡が先か、平和を維持する人知に救われるか、瀬戸際を彷徨う傾いたクリスマスツリーは異様な輝きとともに、ノストラダムスの大予言を狂わせる、祈りのようなパワーを人々に感じさせた。
★
2022年、ノストラダムスの大予言は20数年遅れで的中してしまうのか。
世界中の人知を集結して、予言を防ぎたい。
ダイラの作品群は、私たちに時代や国境、芸術を超えた、とてつもない魔力をもって、人間とは何か、存在とは何かをクールでセンチメンタルに問いかけてくる。
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